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2003年11月21日 (金)

シアターコクーン・オンレパートリー2003『ハムレット』

2003年11月21日(金) Bunkamura シアターコクーン

[作]ウイリアム・シェイクスピア [翻訳]河合祥一郎 [演出]蜷川幸雄

ハムレットは“見られる人”である。王子として常にまわりの注目を集めているだけでなく、クローディアスからは「先王殺害の真相に気づいているのではないか?」という疑惑の目を向けられ、その疑いを逸らすために狂人の振りをすれば、その真偽を見極めようとする者たちに監視される。

それを考えると、仮設ステージを中央に配置した対面式の舞台美術は、この物語に最も相応しいやり方だったかも知れない(ちなみに、何年か前に観た蜷川演出の『グリークス』もこのタイプだったが、ステージと客席に一体感が生じるので私は好きだ)。

第1幕ではステージ上に金網のフェンスが組まれている。そこを俳優が出たり入ったり、時には体当たりして音を立てたり、実に効果的に使用されていた。第2幕ではこのフェンスは取り払われ、まったく何もない空間で物語が進行していく。シンプルな分、俳優の力量が問われる。演じる方にとっては、かなりハードだったのではないだろうか?

ハムレット:藤原竜也
クローディアス、亡霊:西岡徳馬
ガートルード:高橋恵子
ポローニアス:たかお鷹
レアティーズ:井上芳雄
オフィーリア:鈴木杏
ホレイシオ:高橋洋
ローゼンクランツ:新川將人
ギルデンスターン:中山幸
フォーティンブラス:小栗旬
座長、墓掘り:沢竜二

金網のフェンスと蛍光灯の白い光。他には何もない寒々しい空間。ニューヨークの公園か? 今にも、バスケットボールを持った若者たちが出てきそうだ。やがて、少しずつ暗くなる客席。その中を行き交うサーチライト。収容所か? そんなことを思っているうちに、冒頭のバナードーのセリフ。

「誰だ?」

鋭い一言に、観客は一気に舞台に引き込まれる。巧い導入だ。

デンマークの王子ハムレット。父親を失った息子。彼は、非業の死を遂げた父親の亡霊から、「自分はクローディアスに殺され、王位と王妃を奪われた」と告げられる。戸惑い、怒り、復讐の誓い、そして逡巡。しかし、彼は最後には決断し、破滅に向かって突き進んでいく。

迸るセリフ。まさしく、「言葉、言葉、言葉」。藤原竜也は、悩み躊躇い苛立ちながらも、雄弁で強い意志を持つハムレットを鮮烈に演じていた。 本人も「今までの僕のやってきたことは、すべてこれに向かっていた気がしている」と語るぐらいだから、たいへんな意気込みだ。そして、その思いは見事に結実した。実に素晴らしいハムレットである。いや、正直言って、ここまでやるとは想像していなかった。

もうひとり、レアティーズを演じた井上芳雄もいい。“ミュージカル界ホープ”のストレートプレイ起用には疑問も感じていたが、凛とした立ち姿が美しく、気高く素直な王子を造型していたのには驚いた。

しかし、終盤の剣の試合はいささか興醒め。ハムレットもレアティーズも文武両道で剣もかなり上手なわけだから、そのようにやってくれないと。あれでは、剣の下手なふたりが死に物狂いで闘っている感じ。こういうところが中途半端なのよねぇ。

舞台2作目の鈴木杏。果敢にオフィーリアに挑戦していたが、どうも表面的。セリフに心がこもっていない。映像の世界では“若手実力派”と評価されているだけに、こちらが期待し過ぎたのが悪かったのか……。う〜む、残念。

ノルウェーの王子フォーティンブラスの登場は2ケ所。危険を顧みず戦地に赴く彼の軍隊を見かけたハムレットが、自らを叱咤し、復讐の誓いを新たにする場面と、舞台の最後に締めくくり役として。時間にすればたった数分の短い出番だが、観る者に強烈な印象を残して欲しいし、何よりラストでは、権力の非人間性、復讐の空しさ、歴史の残酷さなどを感じさせる存在でなければならない筈。ところが、小栗旬にはそれだけの存在感がまったくない。あれでは何のために出てきたのか……。

その他、たかお鷹の饒舌でお節介なポローニアス、高橋洋の誠実なホレイシオ、沢竜二の軽妙な墓掘りが印象に残る。
休憩を入れて約3時間半。だが、その長さを感じさせない疾走感溢れる舞台だった。

【補足】

●映像における『ハムレット』
シェイクスピア作品の映像化は多い。『ハムレット』だけでも、ローレンス・オリビエ主演・監督、メル・ギブスン主演(フランコ・ゼフィレッリ監督)、ケネス・ブラナー主演・監督、イーサン・ホーク主演(マイケル・アルメレイダ監督)などがある。比較的最近の作品であるケネス・ブラナー版(1996年)とイーサン・ホーク版(2000年)は私も観た。

ブラナー版は4時間にも及ぶ超大作ではあるものの、絢爛豪華な美術や衣裳、世界中のトップ・スターを集めた贅沢なキャスティング(ケイト・ウィンスレット、ジュリー・クリスティ、デレク・ジャコビ、ジャック・レモン、チャールトン・ヘストン……挙げていくと切りがない)のおかげで、非常にドラマティックな作品に仕上がっている。

ホーク版は2000年のニューヨークに舞台を移し、巨大なマルチ・メディア企業の後継者ハムレットが、デジタル・カメラや携帯電話を手に、父の復讐を果たしていく姿を描いている。原作のセリフは半分程度カットされており、かなり大胆な翻案とも言えるが、これもまた、まぎれもなくシェイクスピアの『ハムレット』だ。

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