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2003年11月 2日 (日)

歌舞伎四百年 十一月公演『宮本武蔵』

2003年11月2日(日)&24日(月) 新橋演舞場

[原作]吉川英治 [脚色]宇野信夫 [演出]市川團十郎
[演出・補綴]廣田一

NHK大河ドラマ出演のため、東京では約1年ぶりの新之助の舞台である。宇野信夫が脚色した『宮本武蔵』を新歌舞伎に翻案。「今度は歌舞伎だ!」というキャッチコピーは大河を意識してのことだろうが、テレビ版の評判が悪いせいか、初日の割に空席も目立つ。「大河で新しいファン層を開拓→劇場も大入満員」という松竹の目論見はあっさりと潰えたわけで……。

物語は、武蔵が手柄を立てて武士になろうとした関ヶ原の合戦から、宿命のライバル佐々木小次郎との対決まで。登場人物が多く、しかも、その人物造型が曖昧だったり、人間関係が説明不足だったり、最後まで散漫な印象が残る舞台ではあったが、それを何とか観ていられたのは、ひとえに新之助の存在に拠るところが大きい。

演技が巧くなった。そして、もともと持っていた独特の存在感や華やかな色気がますますアップした。舞台と離れ、その間に蓄えた力を、今再び舞台で思う存分放出しているのだろう。いろいろあったが(笑)、大河を経験した1年間は無駄ではなかったようだ。

新免武蔵 後に 宮本武蔵:市川新之助
お通:市川亀治郎
佐々木小次郎:片岡愛之助
吉野太夫:中村芝雀
灰屋紹由:中村家橘
宿の亭主 嘉平:市川右之助
本位田又八:市川男女蔵
お杉:市川升寿
城太郎:岡村研佑
朱美:澤村宗之助
お甲:中村京蔵
青木丹左衛門:片岡市蔵
吉岡清十郎:市川団蔵
吉岡伝七郎:片岡権十郎
本阿弥光悦:中村梅玉
池田輝政:市川段四郎
沢庵:市川團十郎

【第1幕】

どこからか、戦場の効果音らしきものが聞こえてくる。と、客電落ちて開幕。

をを! 久しぶりの新之助は、第1幕からマッチョな芸風全開だ。又八を“お姫さまだっこ”してみたり、お杉婆を“高い高い”してみたり、千年杉に吊るされて縄を切らんばかりに暴れてみたり。野性味溢れる武蔵を、これでもかと演じている。しっかし、顔や身体はちと黒く塗り過ぎじゃないか?
以前より口跡がよくなっている。声もよく通る。千穐楽までこの調子でいってもらいたいものだ。

亀治郎にはもう少し儚さや可憐さが欲しいところだが、團十郎は予想通りいい。沢庵のような「厳しさの中にそこはかとなく温かみを感じさせる役」をやらせるとさすがに巧い。大きさが出る。

特筆すべきは升寿。成田屋一門中心の舞台でないとなかなか出番のない役者だが、今回もお杉婆を好演。

2回目所見

マッチョな芸風さらに驀進中(笑)。やり過ぎです。ってゆうか、もう完全に“お笑い武蔵”。
う〜む、困った。たぶん、2幕目以降との対比を考えてのことなのでしょう。ま、こういう過剰なところが彼の魅力でもあるわけで。

亀治郎のお通、どの時点で武蔵を「たったひとり、大切な人」と思い定めたのかが見えてこない。沢庵から「真理に嫁せ」と諭された時なのか、山で武蔵を待っていた時なのか、千年杉に吊るされている武蔵を助けた時なのか……。これは脚色・演出の問題とも関係している。武蔵とお通の関係は観客も知っていて当然、という作り手側の怠慢はなかったか?

【第2幕】

いきなり「見違えるほど立派になった武蔵」。でも、やっぱり黒い("RATS&STAR"ですかぁ?)。天守閣に籠ってたのではないの?(笑)

段四郎、梅玉、団蔵、芝雀などなど、脇役が贅沢。いや、ハッキリ言って無駄遣い。こんなに短い出番じゃ為所もないでしょう。まさしく、役不足。
ところで、この「役不足」を間違った意味で使っている人が多いようですね。先日も、仕事の現場で「誰か辞書持ってこいっ!」って騒ぎになりましたわ。三省堂国語辞典によると、役不足とは「割り当てられた役目に対して不満を持つこと」、「軽い役目のために、腕前を充分表せないこと」です。「力不足」とは違うのよん。

愛之助はスッキリとした二枚目で、新之助とはまた違った色気を感じさせてくれるのだが、小次郎を演じるにはあまりにも小柄(泣)。得物が長剣である以上、それなりの身長がないと様にならない。それから、あの衣裳の色合いもどうかと思う。ちんどん屋じゃないンだから、真っ青とか真っ赤とか止めて下さい。

2回目所見

序幕の野生児とは対照的に、ここでの武蔵は本当に美丈夫で惚れ惚れするほど。初日に観た時ほど顔も黒くなかったし(笑)。

それにしても、巧くなったなぁ。特にセリフ。緩急自在。映像の世界を経験し、制御する術を身につけたようだ。もしかしたら、この人は私が想像していた以上の高みにまで上り詰めていくのではないかしらん? (ちょっと大袈裟)

達者な演技で客席を沸せていた子役の岡村研佑だが、呼吸法をもっとちゃんと勉強して欲しい。セリフを言う度に息がもれていた。

今回の席は舞台に近いせいか(前から4列目)、小柄な愛之助がさらに気になった。刀を鞘に収め損なったりしているし。
そして、目をパチパチさせる宗之助のブリッ子演技、どうにかならんのかいっ!(怒)

【第3幕】

一乗寺下り松の決闘。吉岡一門は13歳の子供を名目人に立て、武蔵を待っている。その背後から飛び出す武蔵、すでに二刀流(笑)。「怖いよぉ」と怯える子供を一刀で斬り殺し、さらに大勢と斬り結ぶ。ここの斬り合いが単調で、どうにも迫力に欠ける。続く無動寺での武蔵苦悩シーンと合わせて、もう一工夫欲しいところ。

そして5年が過ぎ、舟島での決闘を迎えるわけだが、ここに至るまでに小次郎の強さをほとんど描いていないため、盛り上がらないこと甚だしい。宇野の脚色を全3幕にまとめるのは、非常にたいへんな作業だったろう。それは想像に難くない。しかし、エピソードの羅列に終始するぐらいなら、どこかひとつに焦点を絞って補綴した方がよかったのではないか。新之助が素晴らしかっただけに、それが残念で仕方ない。

2回目所見

一乗寺下り松の決闘。敵の登場に関して言えば、舞台の上手、下手、奥、手前と、一応工夫されてはいるのだが、それぞれの間が悪いため単調に見えるのかも。

無動寺の場面。暗闇の中、過去に出会った人々が(武蔵に言葉を投げかけながら)現われては消え、消えては現われる、という演出はあまりにもありきたり。いっそのこと、武蔵のモノローグにしてしまった方がよかったのでは?

小次郎の描き方も不十分。「華奢で風流、弁説爽やかで腕も立つ」って、どこがじゃー!

どう考えても、今回の演出・補綴には問題があったと言わざるを得ない。
最近は地方にも劇場が増えているので、毎月どこかで必ず歌舞伎の興行が行なわれている。ンが、役者の数も稽古の日数も限られているため、観る度に準備不足を感じてしまうのよ。

量より質じゃないのか?>松竹

そろそろ歌舞伎興行のやり方を考え直す時期にきているのではないかしらん。

【補足】

●カーテンコール
初日こそなかったが、2日目からは普通に行なわれていたそうな。それも、かなりお約束っぽいものが……。私が観た24日もそんな感じ。客席の拍手はそれほどでもなかったのに、速やかに幕が上がる(をいをい)。役者たちの雰囲気が微笑ましいものだったので何となく許せたが、大いに疑問が残るカーテンコールではあった。

●筋書
いつもなら中日過ぎから舞台写真入りの筋書に切り替わるのに、今回はなし。最初から役柄に扮したカラー写真がたっぷり使用されていたからか?

●舞台写真の販売
同じく中日過ぎから売り出される舞台写真(1枚500円也)。新之助は5種類出ていたが、どれもイマイチ。役者の了解がないと出さないという噂なので、本人は気にいっているのかも知れないが……。

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