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2003年12月12日 (金)

牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』

2003年12月12日(金)&14日(日) ゆうぽうと簡易保険ホール

[演出・改訂振付]三谷恭三(プティパ、イワノフ版による)
[作曲]ピョートル・I・チャイコフスキー [美術]デヴィッド・ウォーカー
[照明デザイン]ポール・ピヤント
[音楽監督・指揮]堤俊作 [管弦楽]ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
[合唱]東京少年少女合唱隊

菊地研の王子。これまでサポートにおける数々のミスを目撃してきた者としては、「本当に大丈夫なのか?」という不安と、「いや、スターに生まれついた者は(をいをい)、こういう大舞台でこそ本領を発揮するのよ」という確信の間で、日々気持ちは揺れ動き、そして迎えた公演当日……。

12日に観た上野水香&李波の記憶がきれいさっぱりリセットされてしまったほど素晴らしい出来栄え! この人を観続けてきて本当によかった。疵がないとは言わないが、それが気にならないぐらい熱気溢れる舞台を見せてくれたのよ〜(感泣)。
とりあえず、キャストは両日とも載せるが、感想は14日を中心に(マヂで12日の記憶はない)。

金平糖の精:上野水香(12日)/橘るみ(14日)
雪の女王:笠井裕子/伊藤友季子
王子:李波/菊地研

シュタールバウム:保坂アントン慶
シュタールバウム夫人:千葉るり子
娘クララ:中野野々子/原田美欧
息子フリッツ:香取成和/鈴田双樹
ドロッセルマイヤー:本多実男
ドロッセルマイヤーの甥:浅田良和
コロンビーヌ:橘るみ/青山季可
ハレーキン:武藤顕三
ヴィヴァンディエール:駒崎友紀/山井絵里奈
おもちゃの兵隊:秋山聡
くるみ割り人形:邵治軍
ねずみの王様:塚田渉

スパニッシュ:坂西麻美、柄本奈美、加藤裕美
       山本成伸、笠原崇広、高橋章/塚田渉、阿南誠、依田俊之
アラブ:吉岡まな美、保坂アントン慶
チャイナ:青山季可、武藤顕三/小橋美矢子、武藤顕三
トレパック:塚田渉、徳永太一、中島哲也/秋山聡、徳永太一、高橋章
棒キャンディー:佐藤朱美、橘るみ、奥田さやか/大畠律子、奥田さやか、青山季可
花のワルツ(ソリスト):平塚由紀子、柴田有紀、橋本尚美、伊藤友季子、相羽源氏、今勇也、菊地研、邵治軍/佐藤朱美、平塚由紀子、笠井裕子、坂梨仁美、相羽源氏、山本成伸、今勇也、邵治軍

【プロローグ〜第1幕 第1場 シュタールバウム家の客間】

牧バレヱの『くるみ』は子供が子役によって踊られる。子役を出す演出を選ぶのには、きっと諸々の事情があるのだろう。でも、私は結構好きだ。
ちなみに、歌舞伎にも子役が出てくることがあるが、ただ出てきただけで客席が沸くあちらと違って、こちらは子供もきちんと踊っているのがいい(笑)。

原作はboy meets girlの話である。だからこそ、他の子供たちが見向きもしなかったくるみ割り人形を、少女マリー(バレエではクララ)だけは一目見るなり好きになるのだ。恋に理屈はいらないからね。
ところが、三谷演出では、クララだけでなく子供たち全員がドロッセルマイヤーの持ってきたくるみ割り人形に興味を示す。さらに、くるみ割り人形をプレゼントされたクララは、他の少女たちとお互いの人形を見せ合いながら、「可愛いでしょう」「あら、あなたのも可愛いわ」みたいな会話を和やかに交わしている。ちがーう! それではboy meets girlの話が成立しないじゃん。

う〜む、色っぽい話は抜きなのね。メルヘンで突き進んでいくのね。幻想とリアリズムが融合したE・T・A・ホフマンの原作は忘れて観ないとダメなのね。はいはい、わかりました。

クララは両日とも聡明そうな少女で、とてもよかった。フリッツも、今どき珍しいぐらい純朴そうなお坊っちゃんたちで、踊りもなかなかお上手。

大人たちの踊り。12日に観た時は2階席だったせいか、空間の使い方があまり巧くないように思えたのだが、14日に観た時は逆にステージ全体をフルに使って迫力が感じられた。こういうあたりが舞台の面白いところだ。
コロンビーヌの橘るみ、人形振りがお見事。

全体的に落ち着いた色合いの装置や衣裳は悪くない。ただ、椅子、テーブル、クリスマス・ツリーといった調度品がしょぼい。特にツリー。あれはどうよ? 夢の世界の幕開けなんだから、もうちょっと何とかして欲しい。

ってことで、魔法の始まり! ツリーが大きくなり、伯父のマントの後ろに隠れたドロッセルマイヤーの甥が、一瞬にしてくるみ割り人形に入れ替わる。相変わらず顔が小さい邵治軍、白い軍服がよく似合っている。
しっかし、ねずみと兵隊の戦いは迫力なさ過ぎ。ねずみの王様との一騎討ちにしても、きちんと見せてこそ、次の王子の登場が効果的なのではないかしらん?

ンで、いよいよ王子の登場。下手側の大きな扉が開くと、背後から強烈なライトを浴びて、王子のシルエットが徐々に現われてくる。グレー×白の衣裳。上体が薄いので、「と〜っても似合ってるわ(はあと)」とならないのが切ない……。あ、一応、髪の毛はそこそこ伸びておりました。
菊地研の王子は、少女を包み込むような大きさ、甘やかな雰囲気、というよりは、若々しく颯爽とした感じ。でも、今の彼ならそういうアプローチだろう。身長差のある子供相手のパ・ド・ドゥでは、ひたすらサポートに徹していたようだ。

そして、王子はクララを雪の国へと誘うのだが、あの簡素な橇は何ですか?(泣)

【第1幕 第2場 雪の国】

ここで合唱が入るのは珍しい。ポイント高し。それだけで盛り上がる。
2階席で観た12日は、空間の使い方が悪いのか、雪の精が少ないのか、とにかく、全体的に物足りなく感じた雪の国だったが、14日に観た時はそれほどネガティブな印象は受けなかった。雪と戯れるクララの姿が可愛くて、そちらに気持ちがいっていたせいかも知れない。

雪の女王の伊藤友季子。清冽な雰囲気はいいのだが、「女王」に相応しい存在感があまり感じられない。そのあたりは笠井裕子の方が余裕もあったし、巧かった。

それにしても、『くるみ』の王子は、クララ、雪の女王、金平糖の精と、タイプの違うパートナーと踊らなければならないので、結構たいへんな役だと思う。その状況で、初役の菊地研はよく健闘していた。腕や指先の表情がすんごく豊かになっていて、予想以上にノーブルだったし。

【第2幕 お菓子の国】

簡素な橇(泣)でお菓子の国に到着する王子とクララ。
金平糖の精に、ねずみと兵隊の戦いの様子をマイムで語る王子。真面目な顔してねずみのマイム。あはぁ、可愛すぎ。「ここで私がスリッパを投げて、くるみ割り人形を助けたのよ!」と、クララも加わり、なかなかのコンビネーションじゃないか、このふたり。
その後、クララは貴賓席に案内され、ディヴェルティスマンへ。

アラブの吉岡まな美と保坂アントン慶は雰囲気作りが巧く実に魅惑的。ただ、お腹を出す衣裳なので、保坂はもうちょっとダイエットして欲しい。トレパックの塚田渉も要ダイエットなのに、どうしてあんなに飛べるのよ? 謎。

棒キャンディーを踊った青山季可がいい。可憐で上品、しかも笑顔がとってもキュート! 好きかも。

平塚由紀子、柴田有紀、橋本尚美、佐藤朱美……両日とも花のワルツが豪華。髪に飾った花も、温かみのあるイエロー系の衣裳も素敵。んー、でも、男性陣のオレンジ×イエローの衣裳はどうよ?(相羽源氏は似合っていたが……)

そして、グラン・パ・ド・ドゥ。金平糖の精と王子、再登場。
王子、御召し替え。レッド×ピンクの衣裳。こういう色の方が菊地研には似合う。でも、やっぱり上体の薄さが気になる。上半身にしっかり筋肉つけてね。

橘るみは前回観た時より少し顔がほっそりした感じ。もともとテクニックのある人だったが、主役で踊る機会も増えて、より華やかさが出てきたようだ。

いや、もう、とにかく、今回はこのアダージオが素晴らしかった。お互いの踊りが呼応しているというか、触れ合い、離れ、また触れ合い、視線を交わす、その度に、ふたりの醸し出す空気が濃密になっていく。
確かに、菊地研のサポートの安定感やアクセントの付け方には、まだまだ未熟な部分も多い。しかし、ふと浮かべる不敵な微笑みや、パートナーを見る一瞬、その視線から零れ落ちる色気の、何と魅力的なこと!(それが王子に相応しいかどうかは、疑問が残るところだが……)

ところで、12日に観た上野水香が案外よかった。ま、金平糖の精がそれほど豊かな表現力を必要とせず、2幕の最後を華やかに盛り上げてくれれば充分、って役だからか?

【エピローグ】

何事にも終わりがある。
眠っていたクララは目を覚まし、すべてが夢であったことを悟る……。クララひとりを残し、ゆっくりと幕が降りる。

カーテンコール。無事にすべてを踊り終え、満足そうな表情を浮かべている菊地研。2000人規模のホール、しかも、その満員の客席を前に踊る経験は誰もができることではない。本人にとってはきっと大きな自信になっただろう。何回、何十回の稽古よりも、たった一度の本番から学ぶことの方が遥かに多いと思う。今回の経験を機に、さらなる飛躍を遂げてくれることを心から祈っております〜。

最後は、賑やかな『ジングルベル』と恒例のプレゼント投げ込み。
まず、菊地王子が投げる。んー、若い割にはイマイチ飛距離が伸びないぞ(笑)。その後は、次々と男性陣が投げ込み、最後に相羽源氏が自慢の強肩を披露。客席も大いに沸く。

そうそう、何度目かのカーテンコールで、菊地王子は雪の女王をエスコート仕損なってしまったのよね。それをすかさず、三谷芸術監督がフォロー。気配り上手だわ。

ま、演出的には不満もあったが、終わってみれば、若手の初役を盛り上げようという暖かい雰囲気に満ちた、とても素敵な公演だった。あぁ、これでオケがよかったら……。

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