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2004年2月13日 (金)

東京バレエ団創立40周年記念公演『中国の不思議な役人』他

2004年2月13日(金) ゆうぽうと簡易保険ホール

当初はモーリス・ベジャールの新作『今日の枕草子』を上演する予定だったが、ベジャールの健康上の理由により演目が変更になった(早くよくなるといいが……)。
ベジャールの新作を観るつもりはまったくなかったのだが、代わりに用意された作品『中国の不思議な役人』に、フリッツ・ラング監督の映画『M』の雰囲気が盛り込まれているとなれば、何年も前に三百人劇場で開催された《フリッツ・ラング映画祭》に通った身としては、観ないわけにはいかないっしょ。

『春の祭典』
[振付]モーリス・ベジャール [音楽]イーゴリ・ストラヴィンスキー

生贄:首藤康之
二人のリーダー:後藤晴雄、芝岡紀斗
二人の若い男:島周、古川和則
生贄:吉岡美佳
四人の若い娘:佐野志織、高村順子、門西雅美、小出領子

久しぶりの“春祭”。
少し前に読んだ衝撃の21世紀型青春小説にして驚天動地のダンス小説、古川日出男『サウンドトラック』の影響もあって、「“春祭”=氾れだすオブセッション」を期待。

ところが、ところが……。困った。こんなにお上品な作品だった? もっと祝祭感と残酷さの入り交じった雰囲気じゃなかった? 観る者の内面に眠る感情をザワつかせるような踊りじゃなかった? う〜む、こんな気持ちを抱いてしまったのも、直前までこの日の予定をキレイサッパリ忘れていた私の心構えが原因かも知れない。

しっかし、ここの男性陣は身体が美しくていいわ。どこかのバレエ団と違って、「ダイエットしろよ!」と、毒づきたくなるような体型はひとりも見当たらないもの。

『ドン・ジョヴァンニ』
[振付]モーリス・ベジャール [音楽]フレデリック・ショパン(モーツァルトの主題による)

ヴァリエーション1:高村順子、門西雅美、武田明子
        2:小出領子
        3:太田美和、井脇幸江
        4:佐野志織
        5:遠藤千春
        6:吉岡美佳
シルフィード:福井ゆい

ここはもう、太田美和の魅力全開! ぽっちゃりした二の腕と太股に和む和む(笑)。そして、やはり目を引くのが井脇幸江。ワタクシ的には、このふたりが踊った第3ヴァリエーションが一番楽しめた。
ここの女性陣は全体的に小柄でぽっちゃり系が多いのか? なんつーか、癒し系?

『中国の不思議な役人』 *東京バレエ団初演
[振付]モーリス・ベジャール [音楽]ベラ・バルトーク
[衣裳]アンナ・デ・ジョルジ(フリッツ・ラングの映画による)
[装置]クリスティアン・フラパン [照明]クレマン・ケロル

無頼漢の首領:後藤晴雄
第二の無頼漢—娘:大嶋正樹
ジークフリート:芝岡紀斗
若い男:井脇幸江
中国の役人:木村和夫

不協和音、変拍子、トロンボーンの主題。妖しいバルトークの音楽に、フリッツ・ラング最高傑作との評価も高い『M』の世界観が混在するなんて……あぁ、目眩がしそうだ。

無頼漢の首領。ピン・ストライプのスーツに黒い手袋、オールバックに撫で付けた髪。後藤晴雄は、映画におけるアンダーワールドのボス(チラシに写真が使われている)さながらで、メチャメチャ素敵。惚れそうだ(笑)。コール・ド(男女が混在していたような)の衣裳も映画そのまま。

これは期待できるかも……と、思ったのも束の間、娘の大嶋正樹にがっかり。単なる、女装のごつい男じゃん。
だいたい、「黒いスパンコールの衣裳、羽飾り、ハイヒール」ときたら、こっちはルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『地獄に堕ちた勇者ども』のヘルムート・バーガーを思い出さずにはいられないわけで、あらすじを読んだ段階で、あの倒錯感を想像しちゃってるわけよ。これは、かなり難しい役だね。

中国の役人は木村和夫。う〜む、淡白。思いが満たされるまで何度でも息を吹き返す不気味さに、娘や首領は徐々に恐怖をつのらせていくわけだが、そのあたりの迫真感がイマイチ伝わってこない。無表情で得体の知れない雰囲気を漂わせるこの役は、動きのひとつひとつに情動が感じられる首藤康之の方が向いていると思う(首藤は翌日のキャスト)。

第1、第2の犠牲者となるジークフリートと若い男。
「ジークフリート」と言えば、北欧神話やワーグナーのオペラを思い浮かべるが、ここはやはり、ラングの映画『ニーベルンゲン/二部作』からの引用なのかしらん?
魔法の剣ノートゥングを携えたジークフリート。ヒーローから犠牲者へ。『M』において、少女誘拐殺人鬼がアンダーワールドのボスたちに拉致され、加害者から被害者へとその立場を転換させていく姿を投影しているのか?

若い男を女性ダンサーに演じさせ、性的曖昧さをより強調させているのだろうが、さすがの井脇幸江も大嶋正樹と並ぶと可愛すぎ。倒錯感がまったく感じられず。

正直、準備不足という感じは否めない。作品自体はとても魅力的なので、今後、さらに踊り込んで、レパートリーとして練り上げていって下さいな。

【補足】

●フリッツ・ラング
サイレント時代から1960年頃まで、約40年間の長きにわたり活躍した映画監督。
1890年、オーストリアのウィーン生まれ。1919年に映画監督となり、以後、ドイツ表現主義を代表する作品を次々と発表。1933年、ヒトラー政権誕生と同時に、ユダヤ人だったラングはフランスへ脱出。さらに、1934年にはアメリカへ渡り、その2年後には監督業を再開する。
とにかく作品が多様で、日本ではその全容はなかなか掴めない。ずいぶん前に特集上映もあったが、未公開作品はまだたくさんある筈なので、もし今回の公演が急遽変更されたものでなかったら、バレエと映画の連動イベントもあったかも……と、残念でならない。

『M』(1931年公開/日本での公開は1932年)はラング最初のトーキー作品。
“デュッセルドルフの吸血鬼”と呼ばれ、1920年代の終わりから1930年5月に逮捕されるまで、多くの女性を殺害したペーター・キュルテンがモデルと言われている。
ピーター・ローレ(気弱そうな童顔が、却って異様な迫力を感じさせる)扮する少女誘拐殺人鬼の高まる欲情と、その存在を邪魔に思うアンダーワールドの住人たちによって追いつめられていく姿を、ラング独特のカメラワークとスタイリッシュな演出で描いたサスペンス映画の傑作。
タイトルの『M』は“Morder(ウムラウトが表示できない)=殺人者”のこと。もともとは『われわれの中の殺人者』というタイトルだったのを、ナチスの過剰反応を避けるために変更したらしい。

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