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2004年7月17日 (土)

十一代目市川海老蔵襲名披露 七月大歌舞伎 夜の部

2004年7月17日(土) 大阪松竹座

何事も二度目は難しい。初めての時は勢いで何とかなるものも、二度目になるとそうもいかず。奇しくも、今月の襲名披露狂言は、どちらも海老蔵二度目のチャレンジである。大阪の夏はもっと暑いかと思っていたが、東京よりずっと過ごし易い。久しぶりの松竹座。軽く道に迷いつつ、劇場到着。混雑しているエスカレーターを避け、3階まで階段で上がる(構造上、3階が一等席になる)。まずは夜の部から。

『沓手鳥孤城落月 −二の丸乱戦の場/城内山里糒庫階上の場−』

淀の方:中村鴈治郎
豊臣秀頼:中村時蔵
大野修理之亮治長:中村翫雀
裸武者 石川吟八:片岡進之介
御台所 千姫:尾上松也
梶の葉の局:上村吉弥
正栄尼:坂東竹三郎
饗庭の局:市川右之助
大蔵の局:市村家橘
包丁頭大住与左衛門:大谷友右衛門
氏家内膳:片岡我當

明治三十八年、大阪角座で初演された坪内逍遥による新歌舞伎。大坂城落城前夜から当日に焦点を当て、正気と狂気の間を彷徨う淀の方、母の身を案じる息子・秀頼、降参か討死かの選択を迫られる家臣たちの姿をリアルに描く近代史劇の傑作。タイトルの“沓手鳥”は鳴いて血を吐く豊臣家の忠臣の心を、“孤城落月”は淀の方と秀頼が城と共に最期を遂げる悲しい末路を暗示しているそうな。

すでに最後の決戦が始まった大阪城落城当日。周囲の者が断りもなく千姫を城外へ逃がしたことに激怒した淀の方は、激しい気性も手伝って正気を失ってしまう。そんな母に向かって秀頼は、生きて恥辱を重ねるより、潔く自害して、亡き父・秀吉へ不肖の詫びをしようと言葉を尽くして説得するが……。

裸武者の進之介、身体のコントロールが全然できていない。城門の石段を転げ落ちる壮絶さと、ハダカ故の滑稽さ。おいしい役なのになぁ、勿体ないなぁ、進。

淀の方の鴈治郎、錯乱した様子に切迫感がない。もっと鬼気迫る、完璧に“イっちゃっている”淀の方でないと芝居に求心力が生まれない。時蔵が、母を殺し、自らも命を絶とうとする秀頼の苦悩を丁寧に演じているだけに、残念。

しっかし、上方歌舞伎のまったりこってりたっぷりの芸風と作品の緊迫感が一致しない、ってゆうか、そもそも《二の丸乱戦》と《城内糒蔵》の場面だけ見せられても何か中途半端なのよね。

『勧進帳』

武蔵坊弁慶:市川新之助 改め 海老蔵
富樫左衛門:片岡仁左衛門
亀井六郎:市川團蔵
片岡八郎:尾上菊市郎
駿河次郎:片岡市蔵
常陸坊海尊:片岡芦燕
源義経:中村鴈治郎

天保十一年、七代目團十郎が能の『安宅』から題材を取り歌舞伎にして上演した松羽目物の舞踊劇。夜の部の襲名披露狂言。海老蔵が弁慶を演じるのは、初演以来五年ぶり。富樫に仁左衛門、義経に鴈治郎という配役は、昭和六十年の京都南座での團十郎襲名披露と同じである。

弁慶の海老蔵、花道の出はいささか小さい印象を受けるものの、第一声が発せられた途端、ぶわーっと大きくなる。そこから先は、何事にも動じない堂々とした立派な弁慶である。富樫との山伏問答も、その豪胆さに圧倒される。しかし、一番凄かったのは、義経を打擲するところだろう。主人を打擲する覚悟(それは、ある意味、死を覚悟することかも知れない)がヒリヒリと伝わってくる。その荒々しさ、その気迫。改めて、『勧進帳』が歌舞伎十八番のひとつなのだということを認識した。

あぁ、それなのに、それなのに。時々、セリフに変な緩急を持たせたりするのよ。頼むから、妙な小細工せんでくれぃー!

……とか何とか言っても、最後、花道の引っ込みを目にすると、すべて忘れて感激モード全開になっちゃうンだけどね(笑)。

颯爽として揺るぎない富樫を仁左衛門が好演。また、舞台の主役は弁慶かも知れないが、物語の中心は義経なのだということを、その格の高さ、その存在感で、きっちりと示していた鴈治郎。

確かに、初演の時のような異様な緊張感はなかったが、両ベテランの存在もあって、実にいい『勧進帳』を見せてもらった。

『弁天娘女男白浪』
浜松屋見世先より稲瀬川勢揃いまで

弁天小僧菊之助:尾上菊五郎
忠信利平:市川新之助 改め 海老蔵
赤星十三郎:尾上菊之助
鳶頭 清次:河原崎権十郎
浜松屋倅 宗之助:尾上松也
浜松屋幸兵衛:山崎権一
南郷力丸:市川段四郎
日本駄右衛門:片岡仁左衛門

文久二年、江戸中村座で初演された河竹黙阿弥による白浪物の代表作で、歌川豊国の錦絵をヒントに書いたと言われている。本名題は『青砥稿花紅彩画』。今回のように、《浜松屋》のゆすり場と《稲瀬川》の五人男の勢揃いの場だけ上演する場合には、『弁天娘女男白浪』という下題を用いるそうな。

振袖姿も美しい上品な武家娘が、供の者を連れて浜松屋を訪れる。実はこのふたり、万引きしたと見せかけて百両を強請り取ろうとしている弁天小僧と南郷力丸。騙りを見破られ、弁天小僧が本性を現わす場面の「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まるセリフはあまりにも有名。結局、ふたりは二十両をせしめただけで、あっさりと帰っていく……。

弁天小僧の菊五郎、七五調のセリフにひたすら酔う。本当にリズム感がいい。ただ、さすがに貫禄あり過ぎだわ。“小僧”じゃないっしょ。「わっちゃ、ほんの頭数」って、どこがやねん? もっとやんちゃな感じが欲しいよなぁ。菊五郎じゃ、悪の魅力が全開しちゃって、悪ぶっている若造にならないのよ。

南郷力丸の段四郎、世話物は苦手らしいが、前半は武士らしく、後半はベテランの悪らしく、なかなかの好演。
日本駄右衛門の仁左衛門、文句なしにかっちょええー!
忠信利平の海老蔵、行儀悪すぎ。始終、目がキョロキョロしているので、目立って目立ってしょうがない。

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