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2004年10月19日 (火)

シアターコクーン・オンレパートリー2004『赤鬼 −日本バージョン−』

2004年10月19日(火) Bunkamura シアターコクーン

[作・演出]野田秀樹 [美術・衣裳]日比野克彦

英国人キャストによるロンドンバージョン(英語上演)、タイ人キャストによるタイバージョン(タイ語上演)に続く、日本人キャストによる日本バージョン(もちろん、日本語上演)。残念ながら、私は日本バージョンのみ。観終わって、「あー、やっぱ全部観ておけばよかった」と、激しく後悔。

あの女:小西真奈美
水銀:大倉孝二
とんび:野田秀樹
赤鬼:ヨハネス・フラッシュバーガー

今回は舞台周辺のエリア指定席だったので、ロビーに置いてある座席表を片手に客席をウロウロ。通し番号順に舞台に近いところから渦巻状にナンバリングしてあるような。よって、100番台の私は、(エリア内では)かなり後方。近いような遠いような微妙な席。

ガラス瓶に囲まれたひょうたん型のステージ。さらに、それを取り囲む客席。まさしく、大海に浮かぶ小さな島。いや、本当に小さいよ。しかも、何もないし(芝居が進むにつれ、小鼓を大きくしたような椅子と、下に重石がついた棒と、漁師網みたいな暖簾が効果的に使われる)。

装置がシンプルなら、出演者も4人だけ。少人数で(正確には、赤鬼役のヨハネス・フラッシュバーガーを除く3人が)目まぐるしく役を演じ分けながら、共同体におけるコミュニケーションの難しさを寓話的に描いていく。

小さな島の漁村に、ある日、流れ着いたモノ。それは、目の色も肌の色も喋る言葉もまったく違う異国の人間だった。村人は彼を“赤鬼”と呼んで忌み嫌うが、同じように村人から疎んじられている“あの女”と、頭の弱い彼女の兄“とんび”と、彼女につきまとう“水銀”だけは、“赤鬼”と言葉を交わそうとする……。

人は何を恐れるのだろう?
共同体から排斥されること? それとも、自分の信念を失うこと?
人は何によって絶望するのだろう?
社会から抹殺されること? それとも、自分の真の姿に直面すること?

ある意味、とてもわかりやすい。別に、アメリカや北朝鮮やテロリストなどを持ち出さなくても。共同体の内と外。そこに描かれていたのは、よそ者を排除し、自分たちを中心に据えることで安心する私たち自身の姿。しかも、排除する側とされる側を同じ役者に演じさせることによって、その安心は永遠に約束されたものではなく、逆の立場に置かれる危うさが常に存在することをも浮き彫りにする。

終盤、処刑を目前にした“赤鬼”は、突如、叫び出す。

「I have a dream(私には夢がある)」

これは、1963年8月28日に行なわれた《ワシントン大行進》でのキング牧師の演説である。時代も場所も特定されなかった普遍的な物語が、その瞬間、具体的なイメージを持ってしまうのが、何とも惜しい。

とんびの野田秀樹、上演前は若いふたりとの世代の違いを何度も口にしていたが、どうしてどうして、一番身体は動いていたし、役の演じ分けだって相変わらず巧い。身体の使い方から表情、声、すべてを瞬時に切り替えてしまうのだ。それにしても、彼が演じるとんびは、頭が弱い故にひとり生き延びることへの悲哀すら漂わせて、絶品!

あの女の小西真奈美、凛とした立ち姿に絶望が滲む。ただ、瞬時に役を演じ分ける瞬発力はまだまだ。そのあたり、今後に期待。

水銀の大倉孝二が不器用な男の有り様を体現する。身長の違いを生かした野田とのやり取りも面白かった。
異形の者の不気味さと同時に知性をも感じさせるヨハネスも好演。

ところで、2階席は最前列しか客入れしていなかったのは、何故? 舞台が見切れるのかしらん?

【補足】

●キング牧師「I have a dream(私には夢がある)」
1963年8月28日、黒人公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King, Jr)牧師は、25万人の人々と共に黒人差別の撤廃を求めてワシントンD.C.へ向かう。これが、所謂、《ワシントン大行進》であり、この時、リンカーン記念堂の前で行なったキング牧師の演説は聴衆に深い感銘を与え、後に“I have a dream(私には夢がある)”というタイトルで呼ばれるようになる(以下、抜粋)。

I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at table of the brotherhood.
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not judged by the color of there skin but the cotent of their character.
And if America is to be a great nation, this must become true. And so let freedom ring from the prodigious hilltops of New Hampshire. Let freedom ring from the mighty mountains of New York. Let freedom ring from the heightening Alleghenies of Pennsylvania. Let freedom ring from the snow-capped Rockies of Colorado. Let freedom ring from the curvaceous slopes of California. But not only that; let freedom ring from Stone Mountain of Georgia. Let freedom ring from Lookout Mountain of Tennessee. Let freedom ring from every hill and molehill of Mississippi - from every mountainside.
Let freedom ring. And when this happens, and when we allow freedom ring - when we let it ring from every village and every hamlet, from every state and every city, we will be able to speed up that day when all of God's children - black men and white men, Jews and Gentiles, Protestants and Catholics - will be able to join hands and sing in the words of the old Negro spiritual: "Free at last ! Free at last ! Thank God Almighty, we are free at last !"

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