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2004年10月15日 (金)

新国立劇場バレエ団『ライモンダ』

2004年10月15日(金)&22(金) 新国立劇場 オペラ劇場

[振付]マリウス・プティパ [改訂振付・演出]牧阿佐美
[作曲]アレクサンドル・グラズノフ
[指揮]エルマノ・フローリオ [管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団
[舞台装置・衣裳]ルイザ・スピナテッリ [照明]沢田祐二

マリウス・プティパ晩年の大作であり、「ロシア古典バレエの集大成とも言える傑作」の割には、全幕上演されることは少ない。私は映像ですら未見。それなのに、いきなり牧阿佐美芸術監督による改訂振付・演出版って、どうよ???

ライモンダ:スヴェトラーナ・ザハロワ
ジャン・ド・ブリエンヌ:アンドレイ・ウヴァーロフ
アブデラクマン:ロバート・テューズリー
ドリ伯爵夫人:豊川美恵子
アンドリュー2世王:長瀬信夫
クレメンス、第1ヴァリエーション:湯川麻美子
ヘンリエット、第2ヴァリエーション:西川貴子
ベランジェ:マイレン・トレウバエフ
ベルナール:冨川祐樹

サラセン人:厚木三杏、大森結城、川村真樹、市川透、陳秀介、中村誠
スペイン人:遠藤睦子、奥田慎也

チャルダッシュ:大和雅美、吉本泰久
マズルカ:厚木三杏、大森結城、鶴谷美穂、千歳美香子、深沢祥子、堀岡美香
グラン・パ・クラシック:遠藤睦子、西川貴子、西山裕子、川村真樹、寺島まゆみ、本島美和、丸尾貴子、真忠久美子、市川透、奥田慎也、マイレン・トレウバエフ、陳秀介、江本拓、冨川祐樹、冨川直樹、中村誠

【プロローグ〜第1幕】

冒頭、ライモンダとジャン・ド・ブリエンヌの婚約シーンが、プロローグとして入る。
芸術監督の演出ノートによると、それによって「ジャンが不在であるという違和感が消え、ライモンダの想いが鮮明に観客に伝わる(かなり省略しています)」ことを意図したようだが、それほど効果があったとも思えない。純白のヴェールを前に愛を誓う男女と、それを物陰からじっと見つめる怪しい男。これじゃ、お昼の帯ドラマ(笑)。ンが、その怪しい存在感で今後を期待させるアブデラクマンのロバート・テューズリーではあった。

中世フランス、プロヴァンス地方。ドリ伯爵夫人邸ではライモンダの誕生日を祝う宴が開かれている。

ライモンダのスヴェトラーナ・ザハロワ、意外と普通。前回観た時の圧倒的な存在感、思わずその足下に平伏してしまいたくなるようなオーラが感じられず。こちらの期待が高過ぎたのかしらん? いや、もちろん、それでも主役としての輝きは充分あるわけで。ただ、その輝きが極端に突出せず、舞台全体のバランスが取れていて、結果的にはいい感じ。
そう言えば、ザハロワは少しグラマーになった? ワタクシ的には、あまりガリガリのバレリーナは好きじゃないので、そこはかとなく肉感的でよかったわ〜。

クレメンスの湯川麻美子とヘンリエッタの西川貴子、ふたりとも長身でプロポーションも悪くないのに、ザハロワと並ぶとオバサン臭い。う〜む。

ジャンのアンドレイ・ウヴァーロフはザハロワを巧みにリードしていたし、リフトも高いのに、たまに「ありゃ?」なところがあるのが、これまたご愛嬌で、ホント、図体デカい割に可愛いのよねぇ。

観る前は、「イメージに合わない」とか、「主役ふたりのボリショイ組に負けている」とか、いろいろ言っていたアブデラクマンのテューズリー。すみません、前言撤回。踊りが少ないのが勿体なく感じたほどの好演でした(自前っすか?>ヒゲ)。あ、でも、自分のマントの裾を踏んでいたのはちょっと……。

ところで、ジャンの肖像画は誰がモデル? あれでは太った子供にしか見えないぞ。

夢の場は、振付そのものを含めてもっと工夫が欲しい。退屈(上の方から観れば、また違った感想を抱くのかも知れないが……)。おまけに、下手袖に捌けていた椅子(ライモンダが眠るための)がすんごい勢いで舞台に出てきたのも興醒め。下手側の席だったので、特に気になってしまった。

何故か妙にツボにハマり、もう1回、別キャストで観る。タイトルロールは吉田都。もともと自分が好きなタイプのダンサーではないので、全幕初見。

ライモンダ:吉田都
ジャン・ド・ブリエンヌ:イーサン・スティーフェル
アブデラクマン:イルギス・ガリムーリン
クレメンス、第1ヴァリエーション:高橋有里
ヘンリエット、第2ヴァリエーション:さいとう美帆
ベランジェ:グリゴリー・バリノフ
ベルナール:吉本泰久

サラセン人:厚木三杏、大森結城、川村真樹、奥田慎也、陳秀介、冨川祐樹
スペイン人:本島美和、市川透

ライモンダの吉田都、踊りが端正で、滋味豊か。アブデラクマンに言い寄られての困惑やジャンを想う憂いなど、演技も的確でわかりやすい。でも、夢の場のヴェール使いはイマイチだったかな。

1幕の友人たち、お転婆(死後?)な高橋有里に優しそうなバリノフ、おっとりしたさいとう美帆におやぢ臭い、もとい、頼りがいのある吉本泰久と、それぞれ恋人らしい雰囲気が出ていてgood(勝手にグループ交際にしちゃったけど、違う?)。

夢の場のコール・ド、振付はともかく踊りはお見事。対角線(クロス)のフォーメーションが多いのは、十字軍を意識してのこと?

笑ったのは、ジャンのイーサン・スティーフェル、ってゆうか、その振付。ライモンダが気がつくまで、椅子の周囲をヒラヒラ回るばかり。えー、こんなに妙だったかぁ? やはり席が違うと、見える世界も違うのね(しみじみ)。ふーん、ジャンの衣装って、鎧っぽいデザインになっていたンだ。前回は気がつかなかったよ。

照明もキレイ。ンが、床の大小様々なドット柄は生理的にNG。鳥肌立ってしまった。

【第2幕】

徐々に緊張が取れてきたのか、ザハロワが調子を上げてくる。その美しさ、そのテクニック。これよこれ、これが観たかったのよ! 素晴らしい〜。新国のソリストたちもよく踊っていたわ。特に、厚木三杏や大森結城、(普段は大時代的で苦手な)遠藤睦子など、女性陣が印象に残る。

踊りの混乱に乗じて、ライモンダを連れ去ろうとするアブデラクマン。まさにその時、遠征から帰還するジャン。あ、マント。念願だったウヴァーロフ with マント。それなのに、すぐ脱いでしまった(泣)。ってゆうか、あんな長くて重そうなマントじゃなくて、短くて軽いマントを背負ったまま踊って欲しいのに〜〜〜。

さらに、ジャンとアブデラクマンとの決闘も如何なものか? 全然、緊迫感ないし、アブデラクマンは頭ぶち割られて絶命だし。スイカ割りじゃないつーの。今回の改訂版では、「アブデラクマンをライモンダに恋するひとりの男性」と捉え、「普遍的な男女の恋愛模様として」描きたかったようだが、それでこの演出? それならそれで、思いを遂げられず、苦悩のうちに死んでいく男の切なさとか見せてくれよ。ってゆうか、だいたい『ライモンダ』って、ストーリーがあるような、ないような、ある意味、全幕ディヴェルティスマンのようなバレエなんだから、無駄な人物造型するよりも、考えるべき問題は他にあると思われ。

しっかし、ウヴァーロフって、全然強く見えないわ。決闘相手に手袋を投げつけるシーンも、何だか妙に微笑ましいし。メチャメチャ素敵なのよ、背は高いし脚は長いし、もちろん白タイツは似合うし。でも、可愛いの(ウヴァーロフのジャンは、結婚したら嫁の尻に敷かれそう)。

ラスト、照明が完全に落ちる前に手を下ろしてしまったザハロワ。「ヤバッ!」って感じで、再び上げ直していたのには笑った。そのあたりのタイミング、ダンサーにはわかりにくいのかしらん?

サラセン人女性陣は今日もイケイケ。
スペイン人の本島美和、メチャメチャ美人だわ〜。この先、踊りにもっと艶が出てくれば、かなり無敵なダンサーになると思われ(ぢつは、密かにお気に入り)。

芸人の男性陣、着こなすのが難しそうな青と黄色のあの衣装を、何となく恥ずかしがっていない? 「こんな衣装、似合うわけねーよ、ちぇっ」という気持ちが踊りに出ているような。

ジャンとアブデラクマンの決闘は、自然な演技の今回に軍配が上がる。スイカ割りも首筋斬りに変わっていたし。ま、細かいことを言えば、当時の剣は“斬る”のではなく“叩き切る”ロングソードだから、本来ならスイカ割りの方が正しいわけで。もしかして、前回の決闘シーンがあそこまでヌルくなってしまったのは、ウヴァーロフのデカさ故?

【第3幕】

結婚式。クラシック舞踊とキャラクターダンスの融合。この幕は、さすがに上演されることも多いだけあって、観ていて楽しめる。主役ふたりはもちろん、新国のソリストたちの健闘が光る。チャルダッシュの吉本泰久、フリスカ(早いテンポ)が巧いダンサーは多いが、彼はラッサン(ゆったりしたテンポ)がよかった。

ザハロワはハンガリー風アクセントを効かせた振付もよくこなし(でも、手を打ち鳴らすところは中途半端だったかな)、持ち前の美しさを十二分に発揮。
3幕はウヴァーロフの魅力全開。ダイナミックで勇壮な跳躍にうっとり〜。奥行のあるオペラ劇場も狭く見えるわ。

久しぶりの全幕バレエだったこともあり、最後は、結構、興奮してしまった。今まで新国の公演でこういう経験は初めて。自分でもちょっとビックリ。もう1回、別のキャストで観たいほど(実際、観てしまったわけだが……)。

特筆すべきは、舞台装置と衣裳。装置はシンプルでありながら幻想的、衣裳は色彩豊かで、しかも、随所に現代的なセンスが感じられる。ただ、角とか、猫の耳とか、孫悟空の緊錮児とか、冠り物は微妙。踊りの邪魔になるのか、帽子が落ちそうになっているダンサーもいたし。あと、女性陣の腕カバー。チュチュには必ずオーガンジー素材の腕カバーが付いているンだけど、あれは役所のおやぢを思い出させてイマイチ。

オケは全体的にモヤっていて、音が粒立たない。もっと頑張りましょうね。

吉本泰久のチャルダッシュは何度観てもいい! 1&2幕のベルナールよりもよかった(それもどうかと思うぞ)。

グラン・パ・クラシック。
ヴァリエーションの遠藤睦子が好演(でも、どこか大時代的なのよ)。
パ・ド・トロワの寺島まゆみは上半身は優雅で音楽的だが、そこはかとなく脚が弱そう。
踊れていない男性が若干名。頼むから、もっと男性陣を鍛えてくれー!(どこのバレエ団も女性上位ってか?)

この幕の吉田都は圧巻。威厳すら漂い、神々しいほど。ひとつひとつのフォルムが、まさに完璧。ここ以外ないというポイントに、すっと収まる快感。しかも、そこに至る軌跡も美しい。いやいやいやいや、いいモノ見せていただきました〜。

ひとつ残念だったのが、4階席だと舞台背景が半分以上見切れてしまい、何が何だかわからなかったこと。

ところで、芸術監督は本当にこの作品を「普遍的な男女の恋愛模様として」描こうとしていたのか? ってゆうか、そもそも、そうした意味付けが必要な作品なのか?
シンプルに「踊りと音楽で魅せる全幕ディヴェルティスマンのようなバレエ」でいいような(もちろん、様々な解釈が成り立つのが古典なわけで、やりようによっては、かなりスリリングな改訂版もできそうなのよね……)。

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