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2004年12月12日 (日)

牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』

2004年12月12日(日) ゆうぽうと簡易保険ホール

[音楽]ピョートル・I・チャイコフスキー
[演出・改訂振付]三谷恭三(プティパ、イワノフ版による)
[美術]デヴィッド・ウォーカー [照明デザイン]ポール・ピヤント
[音楽監督・指揮]堤俊作 [管弦楽]ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
[合唱]東京少年少女合唱隊

菊地研王子デビューから早一年。あっという間だったわ……と、思わず遠い目になるワタクシ。王子登場シーンまでの記憶がまったくなく、出てきたら出てきたで一瞬にして舞い上がり、何が何だかよくわからない状態のままカーテンコールを迎えた去年とは違って、驚くほど冷静に観ている己に気づく。それはきっと、「今回はもう大丈夫だろう」という信頼の表われだと思うが、あの張り詰めた緊張感が恋しくもある。ファンの気持ちは複雑なのさ。

金平糖の精:笠井裕子
雪の女王:青山季可
王子:菊地研

シュタールバウム氏:森田健太郎
シュタールバウム夫人:千葉るり子
娘クララ:菅原亜美
息子フリッツ:永野彰一
ドロッセルマイヤー:本多実男
ドロッセルマイヤーの甥:清瀧千春
コロンビーヌ:伊藤友季子
ハレーキン:中島哲也
ヴィヴァンディエール:渡辺悠子
おもちゃの兵隊:伊藤隆仁
くるみ割り人形:今勇也
ねずみの王様:塚田渉

スパニッシュ:坂西麻美、櫛方麻未、貝原愛、山本成伸、笠原崇広、依田俊之
アラブ:吉岡まな美、保坂アントン慶
チャイナ:竹下陽子、武藤顕三
トレパック:塚田渉、徳永太一、高橋章
棒キャンディー:橘るみ、奥田さやか、渡辺悠子
花のワルツ(ソリスト):佐藤朱実、橋本尚美、小橋美矢子、伊藤友季子、逸見智彦、邵智羽、今勇也、中島哲也

【プロローグ〜第1幕 第1場 シュタールバウム家の客間】

テキスト解釈や演出面で様々な問題のある三谷版『くるみ割り人形』だが、美術はいい。ドイツの重厚な街並、屋敷の豪奢な装飾。これから始まる夢の世界を予感させる贅沢さ(だからこそ、クリスマス・ツリーや椅子などの調度品を何とかして欲しいのよね)。

シュタールバウム家のクリスマス・パーティーに向かう客人たち。そりゃ確かに、丸い顔は福々しくてクリスマスの物語には相応しいけど、ダンサーとしてどうよ? 若い人たちはいいの。問題はおっさん、もとい、ベテランたち。「とりあえず、痩せろよ!」というツッコミが毎回だもの。とは言え、全員が逸見智彦みたいになったら、それはそれで寂しいような(笑)。い、いかん、毒されている?

クララの菅原亜美、あまりにも小柄で最初はちょっと心配したが、どうしてどうして踊りはとてもしっかりしていた。兄のフリッツの方が頼り無いぞ。女性上位はここの伝統?
人形たちはどれもパッとせず。人形振りがイマイチのような。
シュタールバウム氏の森田健太郎、フリッツを叱る姿が怖過ぎ。愛情が感じられない。

三谷版の最大の謎はドロッセルマイヤーの甥の扱い。原作では、「くるみ割り人形=魔法によって姿を変えられたドロッセルマイヤーの甥」という設定になっているが、バレエでは登場しないのが一般的。だから、わざわざ登場させる以上、何かしら意味があると思うのが普通でしょ? ところが、どうもそのあたりが明確に伝わってこないのよ。クララの憧憬の対象であり、その後の夢を喚起する存在と言えなくもない。言えなくもないが、ハッキリそうとも言い切れない。あぁ、もどかしい。そんなことを思っていると、ねずみと兵隊の戦いが始まり、くるみ割り人形とねずみの王様の一騎討ち、そして、王子の登場と相成る……。

席が上手寄りだった去年は、下手側の大きな扉から登場する王子の姿をじっくりどっぷり堪能できたが、今年は中央の席だったため、扉が開いてから姿が見えるまで、すんごく長く感じる。

うん。ヘアメイクはまずまず。去年は目の周りがメチャメチャ濃かったからね(殴られた痕のように青々していた)。衣装もそこそこ似合っている。上体がすいぶん逞しくなったわ。んー、でも、下半身とのバランスを考えるとまだまだかな。ま、これは、あと数年かけて完成していけばいいわけで。

をを! 少女を包み込むような大きさが出てきたじゃん。相手が小柄だったのが効を奏したのか、サポートも、まるで壊れ物を扱うように丁寧で、思わず胸を打たれる。

【第1幕 第2場 雪の国】

ここで合唱が入るのはいい。いろいろ文句のある三谷版だが、これだけは評価する。

雪の女王の青山季可、テクニックは安定しているし、落ち着いているようにも見えるのに、そこはかとない危うさを感じさせる瞬間があって(初主役からくる固さ?)、不思議な魅力を醸し出していた。また、指先の表情がとても豊かで、そのハッとするほどの美しさに、思わず見愡れる。

残念だったのは、菊地研のサポートが不安定だったこと。このふたりの組み合わせ、結構、期待していたのよ。う〜む、リハーサルが足りなかったのかしらん? ま、これからも一緒に踊る機会はあると思うので、それを楽しみにしております。

ところで、いつもよりたくさん降っていなかったか?>雪(最終日の大盤振舞い?)

【第2幕 お菓子の国】

王子に導かれ、お菓子の国に到着するクララ。お願いだから、クララが乗る簡素な橇を何とかして(ツリーといい、橇といい、大事な物がしょぼいのよね……)。

「ねずみと兵隊の戦いの様子や、クララがくるみ割り人形を助けたこと」を金平糖の精に話す王子とクララ。これ、意外とツボなんだな。真面目な顔して、兵隊とか、ねずみとか、マイムで演じるわけよ。笑っちゃうンだけどね、でも、メチャメチャ可愛いの。

これを観ないと『くるみ割り人形』を観た気がしない、吉岡まな美と保坂アントン慶のアラブ。今年もよかった〜。でも、レヴェランスでお腹を一生懸命引っ込めるぐらいなら、ダイエットしろよー!>アントン

そして、去年も書いたけど、今年も書く。トレパックの塚田渉、要ダイエットなのに、どうしてあんなに飛べるのよ? 一時期、少し痩せたようにも思ったが、気のせいだったのね。

棒キャンディーの3人(橘るみ、奥田さやか、渡辺悠子)、可愛いし、巧いし、観ていて快感。続く花のワルツのソリスト(佐藤朱実、橋本尚美、小橋美矢子、伊藤友季子)も含め、このレベルの女性陣の充実が、牧バレヱの強み。だからね、男性陣もね、もうちょっと頑張ってね。邵智羽や中島哲也は、サポートにかなり不安あり、だぞ。

シルバー(グレー?)の衣装からピンクの衣装に御召し替えの王子。いよいよグラン・パ・ド・ドゥ!

ここはもう、金平糖の精の笠井裕子に全部持っていかれてしまったわ。圧倒的なまでの存在感に、ワタクシ、ひれ伏しましたデス。ぢつは、観る前は「ちょっと地味かも」なんて思っていたのよ。でも、そんなこと全然なくて、少女が憧れるに相応しい、それはそれは素敵なお姫様でした〜。

菊地研はユニゾンでの動きやアクセントの付け方などサポート面に進歩が見られ、振付は難しくなっていたにもかかわらず、かなり余裕も感じられた。ただ、笠井とのパートナーシップはイマイチで、相手の情感を引き出すまでには至らなかった。そのあたりに若さが出たか? あと、キメのポーズで大きくよろめいちゃダメでしょう。

そうそう、アダージオの途中で子供が泣き出すアクシデントあり。舞台上のふたりがまったく動じず踊り続けていたからよかったものの、そういう時は速やかにロビーに連れ出して下さいまし(静かになるまで、かなり時間がかかったのよね)。泣き出す恐れのある子供同伴の時は通路側の席を押さえるとか、親御さんも考えましょう。

【エピローグ】

ワタクシ的には、ファンタジーは主人公の成長が描かれる物語だと思っている。だから、エピローグのクララにはそうした成長の証が欲しい。原作がboy meets girlの物語である以上、少女時代の終わりの始まりといった“大人の階段”をひとつ上ったような感じが出ると嬉しいな。

ってことで、カーテンコール。
毎年恒例、客席へのプレゼント投げ込み。自慢の強肩を披露して客席を沸せる相羽源氏の名前が、この日のキャスト表にはない。「ちえっ、つまんない」と、思っていたら、ハレーキンの衣装に身を包み、ワゴンを押して登場! その瞬間、劇場全体が安堵の空気に包まれる。やはり、牧バレヱの『くるみ割り人形』には彼が必要だわ〜。最後の遠投は2階席にしっかり届いておりました。さすがっ!

初めて菊地研を観た時から、彼の中に存在する過剰な部分──年齢に似合わない太々しさや色気といった──に心惹かれた。果たして、そうした本来の魅力(と、私が勝手に思っているだけかも知れないが)を失わず、彼にしか踊れない王子像を造型していくことができるのか? これからも果敢に挑戦し続けて欲しい。切にそう願う。

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