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2005年10月29日 (土)

新国立劇場バレエ団『カルミナ・ブラーナ』『ライモンダ −第1場より夢の場−』

2005年10月29日(土) 新国立劇場 オペラ劇場

自分に猛省を促したい。デヴィッド・ビントレー振付『カルミナ・ブラーナ』を観るにあたっては、カール・オルフの音楽の解釈やテキストの読み込みを済ませておこうと思っていたのだ。ンが、東京国際映画祭開催期間にぶつかってしまい、結局、何もせずに初台へ……。

『ライモンダ −第1場より夢の場−』
[振付]マリウス・プティパ [作曲]アレクサンドル・グラズノフ
[改訂振付]牧阿佐美 [舞台美術・衣裳]ルイザ・スピナテッリ
[照明]沢田祐二
[指揮]バリー・ワーズワース [管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団

ライモンダ:厚木三杏
ジャン・ド・ブリエンヌ:デニス・マトヴィエンコ
第1ヴァリエーション:内冨陽子
第2ヴァリエーション:西川貴子

幕が開いてすぐ、自分が如何に古典作品に飢えていたかがよくわかった。美しいグラズノフの音楽。豪奢な衣裳を身に纏った姫君と、甘い雰囲気を漂わせた騎士。そのまわりを、華麗なタペストリーを織りなすようにコール・ドが舞う。
んー、いいわ。もしかして、私、バレエに関してはかなり保守的なのかも。

十字軍遠征のため離ればなれになっている恋人ジャン・ド・ブリエンヌを想いながら、ひとり眠りにつくライモンダ。すると、夢の中に恋人が現れ……。

ライモンダの厚木三杏、見た目は抜群だが、この役にはイマイチ合っていないような。可憐なお姫様という雰囲気からは程遠い。ワタクシ的には、「ライモンダ=容姿可憐で芯は強い」というイメージなので、凛としたクールビューティーはダメなのよ〜。ま、あくまでもワタクシ的なライモンダ像ということで。

ジャンのデニス・マトヴィエンコは、全幕からの抜粋でありながら、ライモンダを愛する気持ちが明確に伝わってきた。踊りが雑、とか、イマイチ詰めが甘い、とか、今まであまりいい印象を持っていなかったマトヴィエンコだが、今回はほぼ完璧! 時間調整の演目とは言え、2005/2006シーズンの開幕だし、気合入っていたのかな。

ただ、このふたりの踊りの質が対極(厚木はどこまでもシャープで、マトヴィエンコはどこまでも柔らかく)だったのが、いささか残念。

第1ヴァリエーションの内冨陽子、頼り無げな風情が、ある種の魅力になっている。
第2ヴァリエーションの西川貴子は可もなく不可もなく。
コール・ドは初めてみるダンサーが多かったような。そのせいか、いつもより精度に欠ける気もしたが、優雅で幻想的な雰囲気は出ていたのではないかしらん?

久々の古典ということもあって、思いの外、満足している自分がいた。

『カルミナ・ブラーナ』
[音楽]カール・オルフ [振付]デヴィッド・ビントレー
[舞台装置・衣裳]フィリップ・プロウズ [照明]ピーター・マンフォード
[指揮]バリー・ワーズワース [管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団
[合唱指揮]三澤洋史 [合唱]新国立劇場合唱団
[ソリスト歌手]佐藤美枝子(ソプラノ)、ブライアン・アサワ(カウンターテナー)、河野克典(バリトン)

運命の女神フォルトゥナ:シルヴィア・ヒメネス
神学生1:グリゴリー・バリノフ
神学生2:吉本泰久
神学生3:イアン・マッケイ

恋する女:さいとう美帆
ローストスワン:真忠久美子

【プロローグ】

あはは。オケピがすんごいことになっているぞ。指揮者やオーケストラに加え、3人のソリスト歌手に60人の合唱団がギュウギュウに詰め込まれている! 壮観。

新国立劇場2005/2006年シーズン開幕を飾るのは、ドイツの作曲家カール・オルフによる舞台カンタータに、バーミンガム・ロイヤルバレエの芸術監督デヴィッド・ビントレーが振り付けた『カルミナ・ブラーナ』。初演は1995年バーミンガム・ヒポドローム劇場。

ビントレーはオルフの世界観を現代に移し、3人の神学生を登場させ、それぞれ“愛”“欲望”“性愛”に溺れていく姿を描いているそうな。

オープニングの大合唱〈おお、運命よ〉と共に、黒いミニドレスの女が姿を現わす。黒いハイヒールに黒い目隠し。運命の女神フォルトゥナ。彼女の長い手脚によって空間が切り裂かれる時、舞台に強烈な異和が生じる。峻烈な、あまりに峻烈なその存在。悲劇の暗示。

フォルトゥナのシルヴィア・ヒメネスは、バーミンガム・ロイヤルバレエからのゲスト。さすがにビントレーの振付は自家薬籠中の物。かっちょええ〜。

聴衆を圧倒するような大合唱(テレビやCMなどでもよく耳にする)と相俟って、作品世界に一気に引き込まれていく。

【第1部 春に〜草の上に】

神学生1は“愛”に溺れていく。

まったく同じ外見の妊婦ふたり(寺島ひろみ・まゆみ姉妹がこういう使われ方をするのを初めて観た)。乳児を抱いた母親。新たに生まれてくる命への讃歌のような暖かく穏やかな雰囲気。彼女たちに憧れの眼差しを向ける神学生1。ンが、乳児の人形はそこはかとなく無気味だったり、柔らかな衣裳の下に何やら危ないモノが見え隠れしたり、そこには不穏な空気も混じっている。聖と俗の混在。

続くナイトクラブ。女たちは金髪のポニーテールと黒髪のボブカット。あはっ、究極の選択? 男たちは信じられない色合いの衣裳に、信じられない色合いの髪型。シンプルで親しみやすく情緒的な音楽を、ダサダサな衣裳で思いっきりハズしている。う〜む、これが「60年代英国のポップカルチャー」っすか? でもさぁ、新国立劇場の男性陣には、正直、キッツイわ。みんな子供っぽいから、猥雑さは皆無だし、そこはかとなく照れも感じられるし。

ところで、60年代のポップカルチャーって、どのあたり? The Rolling Stonesとか? ま、私が真っ先に思い浮かべたのは、80年代日本のアイドルだったり。素肌にジャケット羽織る姿が、なんつーか、吉川晃司みたいな?(違うって)

神学生1のグレゴリー・バリノフは、彼の持ち味である清潔感が生きたかな。首から外したカラーを鳥のように羽ばたかせるピュアな姿。踊りも柔らかく安定している。うん。今回も癒されました。
恋する女のさいとう美帆は、良くも悪くも人形みたい。“女”じゃないンだよね。

【第2部 居酒屋にて】

神学生2は“欲望”に溺れていく。

冒頭は「怒りのソロ」とでも呼びたくなるような、非常に激しい踊り。神学生2の吉本泰久は、とにかく、テクニックが素晴らしい。最初から最後まで、もう完璧。ただ、そこにあるのは、尾崎豊の歌(これも80年代かな?)にある「盗んだバイクで走り出す」ような、「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」ような、お子ちゃまの怒り。どう考えても、酒や女に溺れていく“男”には見えない。視線の使い方や表情の作り方に工夫が足りないのかしらん? あれだけ踊れるのに、ホント、勿体ない。

ちなみに、今の10代に尾崎の歌を聴かせても、まったく理解されないらしいっすね。少し前までは、共感するかどうかはともかく、理解はできていたと思うンだが……隔世の感だわな。

閑話休題。ローストスワンのシーンは秀逸。バレリーナの象徴のような白鳥を単なる鳥として描くだけでなく、大きな羽根をつけたショーガールとしても描く。食欲と性欲のダブルミーニング。英国らしい比喩と諧謔。

ローストスワンの真忠久美子は、彼女のコケティッシュな魅力が存分に発揮されていて、とてもよかった。惜しむらくは、ラストの表情の作り方。もっともっと大胆に!

【第3部 求愛】

神学生3は“性愛”に溺れていく。

上着を脱いでは着て脱いでは着て……という振付の繰り返しで、堕落していくことへの逡巡を表現している。その後も、男女の駆け引きをボクシングか何かの試合のように描いてみたり、総じてビントレーの振付はわかりやすい。

神学生3のイアン・マッケイも、バーミンガム・ロイヤルバレエからのゲスト。さすがに、この役に必要な成熟した肉体とエロスの発露を兼ね備えている。服をすべて脱ぎ捨てた姿が、ふと殉教者にも思えたり。

ンが、まわりのダンサーが、あまりにも性的に未熟。そのうえ、日本人特有の“身体の薄さ”もマイナスに働いている。なんつーか、猥雑感がまったくない。性器をデフォルメした衣裳を着ていても、まったく全然いやらしくない。「世俗カンタータ」とも呼ばれる『カルミナ・ブラーナ』をやる以上、通奏低音として、いかがわしさは欲しいぞ。

【フィナーレ】

〈おお、運命よ〉の大合唱再び。大勢のフォルトゥナのクローンたちが、フォルトゥナを中心に同じ振付を踊る。肉体の成熟度やエロスの発露はゲストに劣るとしても、踊りに関してはかなり健闘していると思っていたが、こうして同じ振付を一緒に踊ると、その差がくっきりと現れてしまう。ビントレーを踊り慣れているダンサーと比較するのもどうかと思うが、動きのひとつひとつの明晰さ、峻烈さが、まったく違うのだ。

たぶん、オール新国立キャストで上演した方が、作品としてのまとまりは出たような。もし再演するなら、信仰生活からの堕落や英国ポップカルチャーの代わりに、管理教育からの逸脱や80年代のアイドル文化あたりをキーワードに読み直してみたら、それなりの説得力を持つかも知れない。ってゆうか、それじゃもうビントレーの『カルミナ・ブラーナ』じゃないわけで(笑)。

とか何とか埒もないことを考えながらも、オルフの音楽の素晴らしさに、最後はメチャメチャ興奮した。指揮、オーケストラ、ソリスト歌手、合唱団の皆さんには、満足満足(ワタクシ的には、ブライアン・アサワの歌声が聴けたのが嬉しい)。
ま、これだけの規模を考えれば、そう頻繁に上演できる作品でもないし、非常に珍しい作品を誠にありがとうございました。

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