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2005年10月24日 (月)

芸術祭十月大歌舞伎 夜の部

2005年10月24日(月) 歌舞伎座

昼の部は、《草履打》の引っ込みや《長局》の出を堪能するために1階花横の席を取ったが、夜の部は諸々の理由(人形振りとか、鴈治郎とか)で3階A席を取る。通路を挟んだ1列目だったので、前の人の頭が気にならず、気持ちよく観劇。

『双蝶々曲輪日記 引窓』

南与兵衛 後に 南方十次兵衛:尾上菊五郎
女房 お早:中村魁春
平岡丹平:市川團蔵
三原伝造:河原崎権十郎
濡髪長五郎:市川左團次
母 お幸:澤村田之助

《引窓》は、寛延二年に竹田出雲、三好松洛、並木千柳(三大狂言『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』を書いた黄金トリオっすね)が合作した全九段の人形浄瑠璃『双蝶々曲輪日記』の八段目。放生会の前夜、とある田舎家で起きた義理と人情の葛藤を描いた心暖まる一幕。

舞台は山城国八幡にある町人・南与兵衛の家。与兵衛の留守に、相撲取りの濡髪長五郎が訪ねて来る。与兵衛の母・お幸は後妻で、与兵衛は先妻の子。濡髪こそが実の子だった。大事な贔屓客のために人を殺し、死ぬ覚悟で母に一目会おうとやってきた濡髪。そこへ、亡父と同じ代官に取り立てられ、侍姿に身を改めた与兵衛が戻って来る……。

今日の中ではこれが一番の出来かな。役者のアンサンブルがお見事。
自分の仕事を投げ打ってまで義理の母を助けようとする与兵衛の覚悟、愛する夫を気遣うお早の色気、与兵衛の情けに心打たれ母を諌める濡髪の大きさ、そして、実子と継子の間で揺れるお幸の苦悩。それぞれの感情がストレートに胸を打つ。

台本も巧い。「義理と人情の葛藤」とは言っても、社会的規範が人間の生々しい感情を押さえ付けるまでには至らない。結果、非常に後味がいいのだ。さすが、黄金トリオ!

『日高川入相花王』
坂東玉三郎人形振りにて相勤め申し候

清姫:坂東玉三郎
船頭:坂東竹志郎 改め 薪車
人形遣い:尾上菊之助

宝暦九年、竹田小出雲、近松半二らが合作した全五段の人形浄瑠璃の四段目を歌舞伎舞踊化した作品。安珍清姫の道成寺伝説を踏まえており、人形振りで演じられる。

病弱な朱雀帝は、弟の桜木親王に帝位を譲ろうとしていたが、かねてから謀反を企む藤原忠文が、親王を失脚させようとあれこれと画策する。そこで、親王は白河の安珍という修行僧に姿を窶し、熊野の真那古庄司に匿われる。ところが、安珍は庄司の娘・清姫が都で見初めて以来ずっと思い続けている相手だったことから……。

「とざい、とーざい」という黒子の口上で始まる本作は、全編が人形浄瑠璃と同じやり方で進む。やはり3階席を取っておいて正解。人形としての佇まいや人形遣いと人形のバランスなど、いい具合に見える。

清姫の玉三郎は、カクカクした人形振りを期待している観客には物足りなかったかも知れない。とにかく、流麗なのだ。ンが、船頭の薪車のように人形らしいぎこちなさを見せればいいかと言うと、そうでもないと思われ。とりあえず、決して足先を見せないあたりはさすがだし、止まっている時の佇まいには人形そのものを感じたし、ワタクシ的には満足。時々、人形に振り回されているような人形遣いの菊之助。

川へ飛び込み蛇体になってからは、「さすが玉三郎だわ〜」と思わせる迫力。ンが、演出的にはイマイチかも(上から眺めていると、余計なものまで見えちゃうし)。本来、「清姫は親王の命を助けるために犠牲になった女性」として描かれているらしいが、今では、そういう側面は忘れられてしまったそうな(う〜む、“犠牲”なのか?)。

『心中天網島 河庄』

紙屋治兵衛:中村鴈治郎
粉屋孫右衛門:片岡我當
丁稚三五郎:中村壱太郎
五貫屋善六:坂東竹三郎
江戸屋太兵衛:中村東蔵
河内屋お庄:澤村田之助
紀の国屋小春:中村雀右衛門

近松門左衛門作の人形浄瑠璃『心中天網島』を、安永七年に近松半二が『心中紙屋治兵衛』として改作。その前半を歌舞伎に移したものが《河庄》と呼ばれ、上演を重ねるようになった。
上方和事の代表作で、初代鴈治郎の当り役。ってことで、「十二月に坂田藤十郎を襲名する鴈治郎(三代目)が、鴈治郎の名前で最後に演じる家の芸」だそうな。

大阪天満の紙屋治兵衛は、妻子がありながら、曽根崎新地の遊女・小春と深い仲。心中の約束までしている。そんな折、小春は治兵衛の女房おさんから、紙屋の窮状を訴え、夫と別れてくれるよう切々と訴える手紙を受け取る。おさんの気持ちに打たれ、治兵衛と別れる決心を固める小春。そこへ、治兵衛の身を案じた兄・孫右衛門が小春の本心を確かめに現れ……。

治兵衛の花道の出が見ものと言われているが、3階からは見えません。それはともかく、鼻にかかった声がイヤ、とか、たっぷりした芸風はお腹一杯、とか、鴈治郎にはネガティブな印象が多々あるが、確かに治兵衛は秀逸。しょうもない男の未練やおかしみを自由自在に表現してみせる。しっかし、小春はこんな男のどこが良かったンでしょうね? ってゆうか、他人にはわからないのが男と女なわけで。

雀右衛門は途中で休演したと聞いていたので、てっきり小春は代役の翫雀だと思っていた。だから、雀右衛門が登場した時はビックリ! 決して本調子ではなかったと思うが、愛する男と別れなければならない女の辛さや切なさはひしひしと伝わってきた。ただ、足元は覚束ないし、プロンプも付いていたし、来月も舞台があるンだから、無理に出なくてもよかったような。

孫右衛門の我當が好演。ふとした動作や刀の扱い方などに、侍に化けた町人という感じがよく出ていた。治兵衛とのやり取りも漫才のようで実に面白い。
丁稚三五郎で翫雀の長男・壱太郎(ってことは、鴈治郎の孫っすね)が出演。上方の言葉や喜劇の間合いはなかなかのもの。

しっかし、雀右衛門、我當、田之助と皆がヨロヨロしているのに(どうぞご自愛下さい)、鴈治郎だけメチャメチャ元気。すげーよ、ガンジー。

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