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2007年2月 3日 (土)

スペイン国立ダンスカンパニー『バッハへのオマージュ』

2007年2月3日(土)&4日(日) 神奈川県民ホール

[芸術監督・振付]ナチョ・ドゥアト
[音楽]ヨハン・セバスチャン・バッハ(コラージュ)
[装置]ジャファル・アル・チャラビ(構想:ナチョ・ドゥアト)
[衣裳]ナチョ・ドゥアト(協力:イスマエル・アズナール)
[照明デザイン]ブラッド・フィールズ

ナチョ・ドゥアト率いるスペイン国立ダンスカンパニー、待望の初来日! 初めてドゥアトの作品に接した時から、ずっとずっとずーっと心待ちにしておりました。嬉しさのあまり、2日続けて通ってしまったよ。キャストは両日で微妙に変更あり。かなり読み難いと思いますが、上段が3日、下段が4日です。

【第1部 マルティプリシティ】

舞台後方にイントレ。前面は黒い紙で覆われている(場面によっては、紙を寄せて鉄製のパイプや足場となる天板を見せたり)。上手にぽつんと置かれたZ型の椅子ひとつ。

プロローグ)ゴルドベルク変奏曲

ナチョ・ドゥアト、アレハンドロ・アルヴァレス

薄暗い舞台にゆっくりと歩みいるひとりの男。ナチョ・ドゥアト。グレン・グールドのピアノに合わせ、撓み、歪み、捩れを繰り返すドゥアト独特の身体表現が次々と繰り出されていく。50歳という年齢を感じさせない滑らかな動き。

やがて、その動きに絡みつくようなグールドの唸り声が聴こえてくると、もうひとり、バッハと思しき宮廷楽師姿のアレハンドロ・アルヴァレスが現れる。ドゥアトに寄り添うバッハ。それはあたかも、ドゥアトによってバッハの魂が呼び覚まされたかのよう。

1)世俗カンタータ「墓を裂け、破れ、砕け」

アレハンドロ・アルヴァレス、ホセ・カルロス・ブランコ、スウィー・ブーン・キュイク、ディモ・キリロフ、ジェンティアン・ドゥダ、ファブリス・エデルマン、ジョエル・トレド、アマウリー・レブルン、イサック・モントロール、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ、秋山珠子、マリナ・ヒメネス、ルシア・バルバディーリョ、ヨランダ・マルティン、スサナ・リアスエロ、アナ・マリア・ロペス、ステファニー・ダルフォンド、ルイサ・マリア・アリアス

アレハンドロ・アルヴァレス、イサック・モントロール、アマウリー・レブルン、スウィー・ブーン・キュイク、ジェンティアン・ドゥダ、ホセ・カルロス・ブランコ、マシュー・ルヴィエール、ディモ・キリロフ、アントニオ・ルス、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ、秋山珠子、アフリカ・グスマン、スサナ・リアスエロ、クリステル・オルナ、カヨコ・エヴァハート、アナ・マリア・ロペス、ルイサ・マリア・アリアス、ステファニー・ダルフォンド

プロローグが終わると、一旦、幕が下りる。その前に佇むアルヴァレスが客席に一礼し、くるりと後ろを振り返ると、改めて幕が開く。Z型の椅子に腰掛けた大勢のダンサーが、アルヴァレスの指揮で演奏を始める。エアギターならぬエアオーケストラ? なんつーか、子供の遊びの延長みたいな。1部には、そうした無邪気さが散見していた。

2)無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調

アレハンドロ・アルヴァレス、イネス・ペレイラ

アレハンドロ・アルヴァレス、マリナ・ヒメネス

弓を持ったアルヴァレスが、女性ダンサーの身体をチェロに見立てて弾く。チェロという楽器が持つ滑らかなボディラインを女性の身体に喩えることは間々あることで、そこだけを捉えれば大して珍しい発想でもないが、見せ方がユニーク。ふたりとも絶えず動き続け、コンピュータグラフィックスさながら、二次元のフォルムから三次元のフォルムに瞬時に切り替わる。男女の交合を思わせるセクシーな描写もあって、ニヤリ。

3)音楽の捧げもの

スサナ・リアスエロ、アマウリー・レブルン

スサナ・リアスエロ、スウィー・ブーン・キュイク

ふたりのダンサーがお互いの身体をチェンバロに見立てて演奏し合う。動きつつ爪弾き、爪弾きつつ動く。最後は男性が女性の身体をふたつに折り畳んで持ち去る。

4)管弦楽組曲第2番 ロ短調

ディモ・キリロフ、ホセ・カルロス・ブランコ、アレハンドロ・アルヴァレス

マシュー・ルヴィエール、イサック・モントロール、アレハンドロ・アルヴァレス

摩訶不思議な衣裳(チュチュというより腰箕? ってゆうか、左右に竹魚籠をぶら下げた?)を身につけた男性ふたりのパ・ド・ドゥ。振付から判断すると、『ドン・キホーテ』のパロディかも。ある意味、キモカワ系。ンが、クラシックバレエのテクニックはしっかりしているので、意外なほど端正。途中からアルヴァレスも加わり、パ・ド・トロワに。

5)音楽の捧げもの

リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ

リウ・バロッキ、ステファニー・ダルフォンド

女性ふたりのパ・ド・ドゥ。時に相手を追い掛け、時にシンメトリーに動き、そこはかとなく対位法的。いや、バッハはそれほど詳しくないので、よくわからないが……。

6)ブランデンブルグ協奏曲

アマウリー・レブルン、ホセ・カルロス・ブランコ、ファブリス・エデルマン、ディモ・キリロフ、ジェンティアン・ドゥダ、ルシア・バルバディーリョ、ルイサ・マリア・アリアス、マリナ・ヒメネス、スサナ・リアスエロ、イネス・ペレイラ

スウィー・ブーン・キュイク、フランシスコ・ロレンツォ、アントニオ・ルス、ジェンティアン・ドゥダ、ホセ・カルロス・ブランコ、カヨコ・エヴァハート、ルイサ・マリア・アリアス、アフリカ・グスマン、スサナ・リアスエロ、イネス・ペレイラ

うわっ! ダンサーが走る、走る、走る。ただ舞台を縦横無尽に駆け抜けていくだけなのに、何とも愉快。五線譜の上に音符をぶちまけたような。ンで、その音符が束になって客席に向かってくるような。呆れるほど単純でありながら、ちゃんと音楽であり踊りである。

ラスト。走りながら飛翔していく(両側からリフトされたまま、舞台袖に消える)ダンサーの姿に、客席から笑いがこぼれる。

7)ヴァイオリン・ソナタ ホ短調

ヨランダ・マルティン、ジョエル・トレド、秋山珠子

アナ・マリア・ロペス、ジョエル・トレド、秋山珠子

白い仮面の女。ヴァイオリンの弓を片手に踊る。初日に観たヨランダ・マルティンの激しさに圧倒される。そこにあるのは、怒りなのか、哀しみなのか、はたまた、狂気なのか。自らの激情に呑み込まれたかのように、女は最後に弓をへし折る。
続く男女のパ・ド・ドゥは、一転して静謐。秋山珠子の身体は実に艶かしい(滑らかな日本人の肌質による?)。

8)4台のチェンバロのための協奏曲 イ短調

アナ・マリア・ロペス、ルシア・バルバディーリョ、ルイサ・マリア・アリアス、アナ・テレサ・ゴンザガ、リウ・バロッキ、ステファニー・ダルフォンド

クリスティナ・オルナ、カヨコ・エヴァハート、ルイサ・マリア・アリアス、ステファニー・ダルフォンド、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ

4台のチェンバロによる繊細でありながら凄みを湛えた音楽。それを、6人の女性ダンサーが、時に華やかに、時に力強く、具現していく。

ちなみに、この曲はバッハのオリジナルではなく、アントニオ・ヴィヴァルディ《調和の霊感》第10番 ロ短調「4本のヴァイオリンとチェロのための協奏曲」を編曲したものだそうな。

9)ヴァイオリン協奏曲 ト短調

アレハンドロ・アルヴァレス、ヨランダ・マルティン

アレハンドロ・アルヴァレス、アナ・マリア・ロペス

白い仮面の女、再び。ヴァイオリンの調べは破滅のメタファーなのか。男を翻弄する女。美しくも残酷。

10)2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調

アマウリー・レブルン、ディモ・キリロフ、スウィー・ブーン・キュイク、ジェンティアン・ドゥダ、ホセ・カルロス・ブランコ、ファブリス・エデルマン

スウィー・ブーン・キュイク、マシュー・ルヴィエール、アマウリー・レブルン、ジェンティアン・ドゥダ、ホセ・カルロス・ブランコ、アントニオ・ルス

ヴァイオリンの弓を手にした6人の男性ダンサー。「2つのヴァイオリン」をフェンシングの試合で表現。これなんかも少年の発想だよな。

ここで初めて、ジェンティアン・ドゥダを認識。身体のラインがとてもキレイで、寄る辺ない雰囲気と寂しげな眼差しが堪らん。好きかも。

11)メヌエット ト短調

アレハンドロ・アルヴァレス、イネス・ペレイラ、マリナ・ヒメネス、スサナ・リアスエロ、ホセ・カルロス・ブランコ、ジェンティアン・ドゥダ、ディモ・キリロフ、ジョエル・トレド、イサック・モントロール

アレハンドロ・アルヴァレス、スサナ・リアスエロ、マリナ・ヒメネス、アフリカ・グスマン、ジェンティアン・ドゥダ、ホセ・カルロス・ブランコ、アントオ・ルス、ディモ・キリロフ、イサック・モントロール

下手に白い布を垂らして、影絵遊び。3人の女性ダンサーによるコミカルな動きをシルエットで見せていく。ひとりが布の前に姿を現し、アルヴァレスとパ・ド・ドゥ。残りふたりは、引き続き影絵遊び。遊び心満載。

12)世俗カンタータ「消え去れ、悲しみの影よ」

アレハンドロ・アルヴァレス、ヨランダ・マルティン

アレハンドロ・アルヴァレス、アナ・マリア・ロペス

別名、「結婚カンタータ」。アルヴァレスの宮廷楽師姿に合わせて、裾が大きく膨らんだ優美な古装の女性ダンサー。婚礼のパ・ド・ドゥ? 清潔なソプラノが、祝祭的な雰囲気を盛り上げる。

13)ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 第5番 ヘ短調

ホセ・カルロス・ブランコ、ジェンティアン・ドゥダ、ディモ・キリロフ、アマウリー・レブルン、イサック・モントロール、スウィー・ブーン・キュイク、ファブリス・エデルマン、ジョエル・トレド、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ、秋山珠子、マリナ・ヒメネス、ルシア・バルバディーリョ、アナ・マリア・ロペス、スサナ・リアスエロ、ステファニー・ダルフォンド、ルイサ・マリア・アリアス、イネス・ペレイラ

イサック・モントロール、マシュー・ルヴィエール、アマウリー・レブルン、ジェンティアン・ドゥダ、スウィー・ブーン・キュイク、アントオ・ルス、ディモ・キリロフ、ホセ・カルロス・ブランコ、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ、秋山珠子、マリナ・ヒメネス、カヨコ・エヴァハート、クリステル・オルナ、ルイサ・マリア・アリアス、ステファニー・ダルフォンド、アフリカ・グスマン、スサナ・リアスエロ

タイトルには「チェンバロ」とあるが、グールドのピアノ。一列に並んで下手から上手に歩いていくダンサーたち。ただ歩く姿すら美しい。憂いに満ちた旋律に呼応するように、列を乱して踊るダンサーがいる。秩序と破壊。

【第2部 静けさと虚ろさのかたち】

1)フーガの技法

マリナ・ヒメネス、ジェンティアン・ドゥダ

アフリカ・グスマン、ジェンティアン・ドゥダ

フーガの視覚化。主題の提示とその展開。音楽的知識があれば、そこに現れている様式をもっと明確に理解できたのかも知れない。ま、ワタクシ的には、ジェンティアン・ドゥダを堪能することに夢中だったわけだが……。

2)トッカータとフーガ ニ短調

ジョエル・トレド、ディモ・キリロフ、アマウリー・レブルン、イサック・モントロール、ホセ・カルロス・ブランコ、スウィー・ブーン・キュイク、ファブリス・エデルマン

フランシスコ・ロレンツォ、アマウリー・レブルン、イサック・モントロール、ディモ・キリロフ、ホセ・カルロス・ブランコ、スウィー・ブーン・キュイク、アントニオ・ルス

祭服? 神父服? のような黒の衣裳に身を包んだ7人の男性ダンサー。内省的でありながら暴力的ですらある踊りに、しばし陶然。衣裳も担当しているドゥアトの色彩センスが秀逸。長い裾を翻す度に、裏地に使われている鮮やかなピンクが目に飛び込んでくる。

3)オルガンのためのトリオ・ソナタ 第6番 ト長調

アナ・マリア・ロペス、スサナ・リアスエロ、ステファニー・ダルフォンド、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ、ルシア・バルバディーリョ、ルイサ・マリア・アリアス

クリステル・オルナ、リウ・バロッキ、アナ・テレサ・ゴンザガ、カヨコ・エヴァハート、ルイサ・マリア・アリアス、スサナ・リアスエロ、ステファニー・ダルフォンド

今度は女性7人による、小粋で洗練された踊り。

4)死と永遠を想うコラール

イネス・ペレイラ、アレサンドロ・アルヴァレス

マリナ・ヒメネス、アレサンドロ・アルヴァレス

“マルティプリシティ=多様性”をテーマにバッハの音楽をコラージュした1部と違い、“死”を主題に展開させた2部は、オルガン曲を中心に宗教的な色合いが強い。軽やかな踊りの裏側に深い悲哀を感じるのはそのせいか。

5)シンフォニア

イネス・ペレイラ、ヨランダ・マルティン、アレハンドロ・アルヴァレス

マリナ・ヒメネス、アナ・マリア・ロペス、アレハンドロ・アルヴァレス

三たび、白い仮面の女。ここでは“死”を象徴している? もうひとりの女とバッハを奪い合っているようで、その実、バッハともうひとりの女を奪い合っているような。最初の妻の病死を思い浮かべてみたり。

6)教会カンタータ「我がうちに憂いは満ちぬ」

秋山珠子、ジョエル・トレド

秋山珠子、ディモ・キリロフ

寂寥感漂うパ・ド・ドゥ。愛の不毛を感じさせる孤独な男女の姿は、まさに「憂いは満ちぬ」。

7)フーガの技法

アレハンドロ・アルヴァレス、全ダンサー

上手に細い布が垂れ下がる。螺旋状に回転しているからか、はたまた、照明のマジックか、ただの布が時を刻む砂時計のように見える。舞台後方のイントレを、ゆっくり登っていくダンサーたち。その姿は、『ラ・バヤデール』の影の王国を彷彿させて荘厳。

白い仮面の女が布を引き裂き、すべてがストップモーションに……。

8)フーガの技法

全ダンサー

バッハの絶筆、《フーガの技法》で幕を閉じるかと思いきや、再びドゥアトが登場し、プロローグのソロを繰り返す。つまり、《ゴルトベルク変奏曲》と同じ構成(最初に主題のアリアを提示し、それをもとに変奏を展開し、最後にもう一度、主題のアリアを演奏する)を取っているのだ。

こうして、バッハに捧げられた本作は円環の中に閉ざされ、白い仮面の女に手を引かれ、ドゥアトひとりが舞台を去っていく。う〜む、白い仮面の女はミューズにも思えてくるぞ。

深く豊かな音楽性。作品全体を貫く美意識。ふとした瞬間に立ち上るユーモア。そして何より、独特のフォルムと澱みないムーブメント。あぁ、やはり私はナチョ・ドゥアトが大好きだ。特異な身体表現を軽々とこなし、重層的なドゥアトの世界観を見事なまでに具現していたダンサーたちも素晴らしかった〜。

正直、このカンパニーで県民ホールが一杯になるのか? と思っていたが、最初から2〜3階席は閉鎖。1階席も一部のブロックは売り止めにしたらしく、全部入っても1000席ちょっとって感じ。初日は8割ぐらい、2日目はほぼ満席だったかな。

2日ともカーテンコールは盛り上がって、スタンディングオベーションもちらほら。私が思っていた以上に人気あるのかも(笑)。ドゥアトは一度出てきただけで、あとはダンサーに任せていた。出過ぎないのが、これまた素敵。

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