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2009年4月24日 (金)

エスプリ −ローラン・プティの世界−

2009年4月2日(木)〜24日(金) Bunkamura オーチャードホール ほか
http://www.koransha.com/

最終日の今日は2階バルコニー。視界良好でストレスなしに観られるから、オーチャードホールでは割と好きな席。

草刈民代のファンではないけど、牧阿佐美バレヱ団はよく観に行っていたし、コルプも出演するし、ってことで、結局、4回も観てしまった。でも、観る度に違うドラマが展開されて、まったく飽きることはなかったです。こちらのメンタリティが変わるのはもちろん、ダンサーのメンタリティや関係性も、日々、変わっていくわけで。作品が刻一刻と変化していく様を目にすることができて、本当に幸せでした。

とは言え、さすがに4回目ともなると書くこともなくなってくるので(笑)、書いておきたい演目だけざっくりと。

アルルの女 『アルルの女』より

私は壊れていく男が好きです。誰かを愛し過ぎたり、何かを求め過ぎたり、かくありたいと望む自分に手が届かなくて、心を壊していく男が大好きです。だから、プティが振り付けた『若者と死』『カルメン』『ノートルダム・ド・パリ』『スペードの女王』『コッペリア』……といった、男が壊れていく作品は大好きです。

もちろん、『アルルの女』も然り。ンが、今回は最後まで酔えなかった。ダンス的には、ムッルは紛れもなくプティ・ダンサーなんだけど、フレデリが抱える幻の女への妄執は最後まで実感できなかった。

前に草刈民代のヴィヴェットを観た時は、彼女自身がファム・ファタルに見えてイマイチだったのに、今回はちゃんと一途に男を愛する女になっていて驚く。
ぢつは、最後にもう一度、彼女の『若者と死』を観たいと思っていたンだけど、逆に、今の彼女はこの手の一途な女の方がしっくりくるのかも。

『オットー・ディックス』より 〜切り裂きジャック〜

もともとコルプが悪人顔ということもあって、時折、表情が劇画チックになる。ンで、ふと思う。もしかして、快楽殺人者とファム・ファタルのカリカチュアなのか? と。そう思って観ると、これがまた笑えるのよ。

いや、ま、もちろん、プティの意図とは違うだろうけど(あ、でも、風刺とか諧謔って、プティの持ち味のひとつではあるよな)、自分なりの落とし所が見つかった気がして、何かすんごく嬉しかった。たとえそれが自己満足であったとしても。

ワタクシ的には、たまにコルプが真顔になるのがツボでした。真面目な人なんだね。悪人顔とか言ってるけど、殺人者としての表情を作るのは、彼にとっては、案外、たいへんなことだったのかも。

モレルとサン=ルー侯爵 パ・ド・ドゥ 『プルースト 失われた時を求めて』より

今日はモレルの物語として観られた。確かに、コルプのモレルがムッルのサン=ルーを捕らえて、籠絡していく様子がじっくりと描かれていた。ただ、性的なものは感じなかった。やっぱ、そのあたりはフランス人には敵わないような(笑)。

でも、これって、本当に「倒錯的な男性二人のパ・ド・ドゥ」なんだろうか?

そもそも、『プルースト 失われた時を求めて』は「プルーストの長編小説『失われた時を求めて』にインスピレーションを得て振り付けられたバレエ」であって、原作を忠実に再現しているわけではない。だから、このパ・ド・ドゥにおけるモレルとサン=ルーの造型も、決して、原作通りではなく、かなり純化されている。
そのうえ、無理な体勢をとらせる振付も多くて、私には、倒錯的どころかストイックにさえ思える。最後のポーズなんて、宗教画に見えちゃったよ。

ってことで、「現実は記憶の中に作られる」じゃないけど、私の中ではそれが現実になっていくのかしらん?
……今更だけど、ゲイ友を誘えばよかったな。新たな発見があったかも。

チーク・トゥ・チーク

全員で2回踊るまでは今までと一緒。何度目かのカーテンコールで、男性陣が一輪の赤い薔薇を持って順番に登場し、草刈民代に渡して抱擁してました。ここにきて彼女もこらえきれなくなった様子で、頬に涙が……。でも、決して大泣きすることはなく、最後まで笑顔を絶やさず観客に手を振る姿は、見事なまでに清々しかったです。

最後に、プログラムについて少々(念のため、もう一度、書いておきます)。

【第1部】

アルルの女 『アルルの女』より
[音楽]ジョルジュ・ビゼー

草刈民代、マッシモ・ムッル

ヴァントゥイユの小楽節 『プルースト 失われた時を求めて』より
[音楽]セザール・フランク

タマラ・ロホ、イーゴリ・コルプ

コッペリウスと人形 『コッペリア』より
[音楽]デオ・ドリーブ

ルイジ・ボニーノ

タイス パ・ド・ドゥ 『マ・パヴロヴァ』より
[音楽]ジュール・マスネ

タマラ・ロホ、リエンツ・チャン

『オットー・ディックス』より 〜切り裂きジャック〜
[音楽]アルバン・ベルク『ルル組曲』より

草刈民代、イーゴリ・コルプ

【第2部】

『白鳥の湖』1幕2場より 男性のソロ/パ・ド・ドゥ
[音楽]ピョートル・チャイコフスキー

草刈民代、マッシモ・ムッル

エスメラルダとカジモドのパ・ド・ドゥ 『ノートルダム・ド・パリ』より
[音楽]モーリス・ジャール

タマラ・ロホ、リエンツ・チャン

ティティナを探して/小さなバレリーナ 『ダンシング・チャップリン』より
[音楽]レオ・ダニデルフ、チャールズ・チャップリン

ルイジ・ボニーノ

ジムノペディ 『マ・パヴロヴァ』より
[音楽]エリック・サティ

草刈民代、リエンツ・チャン

モレルとサン=ルー侯爵 パ・ド・ドゥ 『プルースト 失われた時を求めて』より
[音楽]ガブルエル・フォーレ

マッシモ・ムッル、イーゴリ・コルプ

チーク・トゥ・チーク
[音楽]アーヴィング・バーリン

草刈民代、ルイジ・ボニーノ

プティと言えば“エスプリ(これがまた日本語にするのが難しくて、普通に訳せば“才気”なんだろうけど、“粋”とか“洒脱”とか“知性”といったニュアンスも含まれていたり)”なんでございますが、ノワールな世界観(ここでいう“ノワール”とは、暴力的とか凶暴性ではなく、虚無的、あるいは、不条理を指す)を感じさせる作品も多くございます。

ンで、改めて本公演の構成を振り返ってみると、ノワールなものとそうでないものが、緩急を考えた見事なバランスで並んでいて、草刈民代のプロデュース手腕にはいたく感心いたしましたです。

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