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2012年6月 2日 (土)

新国立劇場『サロメ』

2012年5月31日(木)〜6月17日(日) 新国立劇場 中劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/

[作]オスカー・ワイルド [翻訳]平野啓一郎 [演出・振付]宮本亜門
[美術]伊藤雅子 [照明]西川園代 [音楽]内橋和久
[音響]渡邉邦男 [映像]栗山聡之 [ヘアメイク]川端富生

サロメ(ヘロディアの娘):多部未華子
ヨカナーン(預言者):成河
ヘロディア(ヘロデの妻):麻実れい
ヘロデ・アンティパス(ユダヤの四分封領王):奥田瑛二

若いシリア人(護衛軍の隊長):山ロ馬木也
ヌビア人:植本潤
カッパドキア人:櫻井章喜
第一のユダヤ人:鈴木慎平
第二のユダヤ人:平川和宏
第三のユダヤ人:水下きよし
第四のユダヤ人:ヨシダ朝
第五のユダヤ人:戸井田稔
第一のナザレ人:水野龍司
第二のナザレ人:春海四方
サドカイ人:神太郎
ファリサイ人:遠山俊也
第一の兵:池下重大
第二の兵:谷田歩
ティゲリヌス(若いローマ人):森岡豊
奴隷:漆崎敬介
ナーマン(首斬り役人):星智也
ヘロディアの近習:内藤大希

演奏:内橋和久

しまった……。予習し過ぎたかも。サロメの少女らしさとか、子供ゆえの残酷さとか、翻訳家や演出家の言うようにしか見えなくて、想像力の遊ぶ余地がほとんどなかった。なんつーか、予告編でお腹一杯になっちゃった、みたいな。

それはそれとして、サロメの多部未華子が予想を上回る出来栄え。声の強弱、高低、抑揚、リズムや間、あるいは、相手の言葉を聞いている時の受けの演技など、「教わったことを忠実にやってます」感はあるものの、すんごく健闘していた。何か不思議な魅力のある女優っすね。

ヨカナーンの成河がレオナルド・ダ・ヴィンチ《洗礼者聖ヨハネ》を彷彿させる美しさ。
ヘロディアの麻実れいも貫禄たっぷりで、いつもながら素晴らしい。
ヘロデの奥田瑛二は台詞も動きも一本調子、ってゆうか、何を観ても同じだよね、この人。
人種の違いを衣裳で表現していたけど、ちょっとわかりにくかったかな。

舞台がまさに血の海になっていく終盤は、多部の好演もあって見応えあり。天井から吊り下げられた鏡も効果的。

◆ シアター・トーク ◆
ステージではスタッフが黙々と清掃中。オケピの水溜は、毎回、水を抜いて掃除しているそうな。スタッフ泣かせの美術やな(笑)。

出演者は着替えなどがあるので、まずは、演出の宮本亜門と新国立劇場 演劇 芸術監督の宮田慶子が登場。司会は中井美穂。例によって、記録ではなく記憶です……と言いつつ、記憶力に衰えを感じる今日この頃。

──どういう経緯で『サロメ』の上演が決まったのかお聞かせ下さい。
宮田「【JAPAN MEETS… −現代劇の系譜をひもとく−】シリーズの上演にあたり、亜門さんに声をかけたところ、『サロメ』をやりたいと言われた。日本では大正時代に松井須磨子主演で上演され、近代以降の日本演劇に大きな影響を与えた作品であり、ぜひやりましょう! ということになった」
宮本「三島由紀夫の『金閣寺』を上演したこともあり、三島との関わり……三島が撮った映画『憂国』も頭にあった……とか、サロメとは? オスカー・ワイルドの生き方とは? といったことを掘り下げてみたかった」

──劇場に入って、まず驚かされるのがセットですよね?
宮本「この劇場はコロシアムではないので、空間を作るのが難しい。奥行きは広いンだけど」
宮田「サッカー場と呼んでます(笑)」
宮本「オケピに水を入れてもいいと新国のスタッフに言われたので、入れることにした」
宮田「皆で腹を括った、と(笑)」
宮本「通常の上演だと、ヨカナーンの姿は見えず、声だけが聞こえることが多い。でも、それだとヨカナーンとサロメの関係性が見えてこない。ヨカナーンの言葉をちゃんと伝えるためにも、肉体の存在が必要だった。あと、ヨカナーンが閉じ込められている場所を穴蔵にすることが多いけど、本当は水溜。月。鏡。水。つまり、ナルシズムに通じる。この場合のナルシズムは、自己陶酔ではなく自己確認」

宮本「この作品はサロメの猟奇性や官能性ばかりが注目されてきたけど、ワイルドは“女性の自立”を念頭に置いており、単に“魔性の女”を描きたかったわけではないと思う」
宮田「亜門さんの話を聞く前から『サロメ』については自分も同じ考えを持っていて、何よりもまず、サロメは少女でなければならないと思っていた。そして、自分も母親のようになるのではないかという気持ち、すなわち、女(おんな)性に対する恐怖を持っている。だから、亜門さんのサロメ像には共感している」
宮本「三島演出による岸田今日子さんのサロメも少女として造型されていたらしい。三島は“spoiled child(甘やかされた子供)”とも言っていたンだけど、それだけではない。サロメは父親が12年間も幽閉されていることを知りながら生きてきたわけで、愛し方を知らず、ある種の歪みも持ち合わせていたと思う」

──平野啓一郎さんに新訳を依頼した時にはキャストは決まっていたンですか?
宮本「多部ちゃんは決まっていた」

──多部さんがサロメというのは意外ですよね?
宮本「『なんとかワンコ』(NTVのドラマ『デカワンコ』のことですね)とか?(爆)」

──平野さんが他のキャスティングを気にすることは?
宮本「翻訳中は気にしていたかな。誰と交渉してる? とか、よく訊かれた。そう言えば、原作はフランス語も英語もシンプルなんですよ」
宮田「上演を前提にした翻訳は、平野さんにとっても励みになっていたと思う」

──衣装も現代的。人種によって変えてますよね?
宮本「いろんな人種が登場するから、本当にたいへんだった。研究者、学者を何人も呼んで、勉強会を開いて」

ここで、着替えを終えた奥田瑛二と成河が登場。

──どんなふうに役に入っていきましたか?
奥田「作品によって違うし、人によっても違う。今回は、自分からヘロデに近づいていくと同時に、ヘロデの首根っこを掴んで自分の中に入れようとした。でも、なかなかできなくて、やっと今日くらいかな、できたのは。方法論は人それぞれ。皆、苦労を重ねている」
成河「まず、漫画で聖書を読んだ。稽古でも、読解と解釈に長い時間を費やしてもらった。材料を蓄える時間があって有難かった。ヨカナーンの言葉は聖書のパッチワークになっていて、パロディであり、キリスト教への批判でもある。今回は、戯曲を解釈し切れた実感がある」

──新しい『サロメ』を上演しようという意識はありましたか?
宮本「新しいとは思っていない。ただ、原典を紐解くというか、しつこいくらい読み解くというか。聖書が書かれた時代とワイルドが生きた時代にもかなりの開きがあるし。ワイルドは、女性に対する意識の変革とか既成概念の打破といったことを考えていたと思う。サロメは愛を語っていて、それが終盤のモノローグ『愛の神秘は、死の神秘よりも大きいの』に集約される。サロメはヨカナーンの予言を理解しようとしているし、最後はちゃんと受け入れている」
成河「ヨカナーンはすべてを予言している。例えば、ヨカナーンの言葉に出てくる“未熟な青い無花果”というのは童貞の男性性器の比喩で、それが枝から落ちる=ヨカナーンの死を表していたり」

ここで、着替えを終えた多部未華子と麻実れいが登場。

──苦労したことはありますか?
奥田「時に、役者は演出家をぶっ殺したくなる。根性や意地のぶつかり合い。演出家が言ったことを自分の血と肉にする。プロセスが複雑。自分の毒を吐き出しながら、宮本亜門という毒を入れていくのは大変だった」

──多部さんは過去の『サロメ』を観ましたか?
多部「YouTubeでオペラを観ました。あまりにお色気ムンムンで、何で私が? と(笑)」

──いつ観たンですか?
多部「話を受けた後。何も知らずに」

──戯曲を読んだ印象は?
多部「言葉が言い易くて、今時だな、と。YouTubeと違って、官能的なものをイメージしなくて済みました」

──サロメとは?
多部「変わった娘(爆)」

──ぬいぐるみ持ってますしね。
宮本「変わった娘ですから(さらに爆)」

──麻実さんはいろんな役を演じていますが、今回のヘロディアはいかがでしたか?
麻実「変わった娘の母、悪徳の母です。起承転結の途中を抜いたような戯曲なので、“母子愛”で一本通して演じています。今はヘロディアを愛してます」

──演出はどのように進めていったンですか?
宮本「皆で話し合ったり、発見したり。稽古期間が1ヶ月半くらいあって恵まれていた。稽古場と本番の舞台が同じ場所にあることもよかった」

ここから質問タイム。演劇関係だと、俳優志望の若者(♂♀問わず)か持論を延々と述べる老人(♂)のどちらかは大抵いるンだけど、今回はその両方がいたよ。

──プロを目指しています。参考までに、練習方法を教えて下さい。
奥田「練習方法? 練習方法? 練習方法はない。自分を信じること。今、あなたが手を上げて質問をしたように、自分を表現する、自分を信じる、それこそが大事」

──ヨカナーンの生首はどうやって作ったンですか?
成河「下北沢にある工房に出掛けていって作りました。映像の世界で活躍した方で、『羊たちの沈黙』なんかを手掛けたらしい。顔を粘土で覆って布で縛って型を取る。演出家からは、今にもキスしたくなるような表情で、と指示があって。あれは再演しないとゴミ?」
※この後、大爆笑の多部コメントがあったンだけど、演出家からのお達しで書けません。

──ヨカナーンは開場した時から舞台下にいますよね?
成河「あれは僕が自分から提案しました。亜門さんも承諾してくれて」
宮本「僕もやりたかったンだけど、開演前に集中できないかもしれないし、そこまで要求するのはどうかな、と。でも、彼から言い出してくれたので、即座にOKしました」
成河「あんなに集中できる時間はないですよ」

──まず、宮田さんに質問です。宮本さんを指名した一番の理由はなんですか? また、クラシックの世界に女性指揮者は少ないですが、演劇の世界には女性演出家がいます。その違いはどこにあるンでしょう?(この人、何を言っているのかイマイチよくわからなくて……もしかしたら、まったく逆のことを訊いてたかも)それから、宮本さんに質問です。多部さんをキャスティングした理由はなんですか?(ここで止めようとした司会者を無視して)全員の台詞が入らないと演出できないと思いますが、どの段階で全部入りますか?
宮田「ご存知のように亜門さんはKAAT(神奈川芸術劇場)の芸術監督をなさってますが、芸術監督ではなく演出家として楽しんでいただきたかったのと、このシリーズを手掛けてもらいたかったので。もうひとつの質問については、今は女性が元気な時代ですから。それに、演出家は、日々、決断を要する仕事なので、女性に向いていると思います」
宮本「台詞は覚えません。それは役者さんの仕事。あらゆることをチェックするのが自分の仕事で、台詞を覚えることではない。僕ね、多部ちゃん大好き。『農業少女』(東京芸術劇場 野田秀樹芸術監督就任記念プログラム、感想はこちら)を観て、面白いなぁと思って。実は、『なんとかワンコ』は観てません。テレビに出てるとか出てないとか、どこの事務所だとか、そんなことは関係ない」

最後の質問者はどうよ? って感じだったンだけど、宮本亜門のストレートな答えで救われました。
あと、成河はすんごくcleverだな、と(私のまとめ方が下手で、そのあたりがちゃんと伝わらなくて申し訳ない)。

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