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2012年10月 8日 (月)

新国立劇場 マンスリー・プロジェクト 10月

2012年10月8日(月・祝) 新国立劇場 中劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/

演劇講座 リチャード三世の魅力
講師:小田島雄志(東京大学名誉教授)/鵜山仁(演出家)

左目の上に絆創膏(?)、右手にステッキ、でご登場の小田島先生。転倒して救急車で運ばれ四針も縫ったそうな。滑舌はイマイチでしたけど、元気に喋っておられました。途中からリチャード三世(岡本健一)も参加して、あっという間の1時間半。楽しかった〜。

本題に入る前に、挙手によるアンケート。

『リチャード三世』をまだ観ていない人 → 多数
『ヘンリー六世』を観た人 → 多数
『リチャード三世』についてまったく知らない人 → 数人

事前に配られたレジュメ(A4用紙1枚)を元に、まずは小田島先生による『リチャード三世』の簡単な解説。一応、制作部のスタッフが司会を担当していたものの、30分、先生ひとりで喋りまくり。

・シェイクスピアには《歴史劇 HISTORY》が10本ある。ちなみに、この分類は1623年に刊行された最初の全集に則っていて、3つのジャンル(残りは《喜劇 COMEDY》と《悲劇 TRAGEDY》)に分かれている。

・第1期4部作(『ヘンリー六世・1〜3部』『リチャード三世』)と第2期4部作(『リチャード二世』『ヘンリー四世・1〜2部』『ヘンリー五世』)を合わせて“薔薇戦争物”と呼んでいる

・その他、ランカスター家とヨーク家の系図とか、登場人物の紹介とか。ヘンリー五世は、若い頃は問題児、王になっては名君、だったそうな。今でも英国で人気投票をしたらトップではないか(除く、女王)、とのこと。

──ずばり、リチャード三世の魅力とは?
小田島「シェイクスピア作品で悪役が主人公なのは『リチャード三世』と『マクベス』だけ。リチャード三世のキャラクターが魅力的。芝居気たっぷりで愛嬌がある」
鵜山「最初は普通に“悪のエネルギー”などと考えていたが、稽古をしているうちに変わってきた。客を敵に回しているのか、味方にしているのか、わからない語り口。とても劇場的。最後は劇場に裏切られ、滅びることで喝采を浴びる。最後まで客とキャッチボールをしている。夢を描くことで現実を乗り越える“夢見るチャンピオン”。相反するもの……生と死、善と悪、美と醜など……の相克が人生だとすれば、まさに人生を象徴している」

ってことで、本公演でリチャード三世を演じている岡本健一が登場。

──岡本さんが考えるリチャード三世の魅力とは?
岡本「まず、本が面白い。最初に筋書きを曝け出し、観客と共有してるでしょう。それから、1590年頃に上演された芝居を現代の東京でやっていることも凄い」
──日本で言えば、豊臣秀吉の時代ですよね?
小田島「そう。歌舞伎がもう少しあとで、1604年だったかな?」

鵜山「作曲家の池辺晋一郎さんが初日に観てくれて、かなり珍しい『リチャード三世』、『リチャード“アルカリ性”』だね、と(爆)」
岡本「過去に演じた仲代(達矢)さんや山崎(努)さんのリチャード三世は悪のイメージが強い。でも、実は30代で死んでるンですよね。とても若い」
──そう言えば、先日、リチャード三世のものかも知れない遺骨が発見されました。また、10月2日はリチャード三世の誕生日なんですけど、時差の関係で日本では公演初日に当たるンですよ。そんなこんなで、後押ししてくれている気がしています」

──稽古プランはどんな感じでした?
鵜山「『ヘンリー六世』の時、リチャード三世のテーマソングがOver the Rainbowだった。これが著作権使用料高くて……(笑)。それはともかく、虹の向こうに夢を見るようなキャラクター。岡本君を見てるとそう思う」
小田島「悪役というのは、本来、リアリスト。計算高く現実的。でも、岡本君だとロマンティストになる」
岡本「本当に悪い人は、悪く見えないのでは? 見るからに悪そうだったら、誰も騙されないわけで。悪役って、もっと多面的だと思う」

──シェイクスピア作品の中で主人公の独白で始まる芝居はこれだけですか?
小田島「そうですね。普通は主人公が出てくる準備をするものなのに、最初から主人公の独白で始まる。リチャード三世は、筋書きを考える劇作家であり、周りの人間を動かしていく演出家でもあり、時には自ら演じる役者でもある。すべての性質を持っている」
岡本「稽古で鵜山さんの真似をしたりしました(笑)」
小田島「女性が呪うだけのシーンがあるでしょう? こちらは主人公に共感しながら訳してるので、どんどん刺さってくる。できればカットして欲しいな、なんて思っていたけど、実際に観ると、このシーンがあることで舞台が立体的になる」
鵜山「呪いなのに、亭主自慢や子供自慢に聞こえてきたり」

残り時間も少なくなり、ここで参加者からの質問タイム。

──小田島先生にお訊きします。結局のところ、リチャード三世の動機は何だとお考えですか? また、昨日のシアタートークで『王冠を手にするまでは計画していたけど、その先を考えていなかった』という話が出ましたが、それについてはどうお考えですか?
小田島「独白にもあるように、居場所がなかったから。私も、王になった後のことは考えていなかったと思う。それは、バッキンガム公の扱いに象徴されている。味方につけておけば、もっと長く王座にいられただろうに。新しい局面を迎える度に、筋書きを考えていたンでしょう」

──『リチャード三世』をまだ観ていないので、『ヘンリー六世』についてお訊きします(と言いながら、延々と自分語り。必ずいるよね、この手の老人。司会者から止められ、他の客から野次られ、ようやくした質問、ってゆうか、文句?)。新国立劇場の『ヘンリー六世』に比べて彩の国さいたま芸術劇場の『ヘンリー六世』はタイトでよかったが、台本のadaptについてどうお考えですか? また、『ヘンリー六世』の時に声が出てない役者がいましたが……?
小田島「ちゃんとやっていますよ。鵜山さんも台本をそのまま上演しているわけではない。私は蜷川版も観たけど、鵜山版の方がいいと思ったな」
鵜山「聞こえる聞こえないは、客によって違う。稽古でずっと聞いていると慣れてしまって、聞こえなくても聞こえる気になってしまうこともある。皆さんに広く行き渡るよう努力するしかない。キャスティングについては、無責任な言い方かも知れないけど、天から与えられるものなので、集まった人間で最高を求めるだけ。あと、自分の偏見に囚われないよう気をつけている」

──リチャード三世の理想はヘンリー五世だと思うのですが、岡本さんのヘンリー五世で第2期4部作の上演をお願いします!
司会「貴重なご意見、ありがとうございます。次は、ご意見ではなく、ご質問のある方、お願いします(笑)」

──三人にひとつずつ。まず、鵜山さん。舞台装置が月面にも見えるのですが、どのような意図があるのでしょうか? 次に、小田島先生。主人公が魅力的と言われていますが、登場人物の中でちゃんと描かれているのが彼だけのような気もしますが……? 最後に、岡本さん。言い難い台詞などありますか?
鵜山「戯曲を読んでいると、時間が流れていく感じがある。『ヘンリー六世』の時に戦跡巡りをしたけど、案外、何もない原っぱだったりする。長い時間の流れにおける人間の営み。そんなことを美術の島(次郎)さんが誤解した結果がこれ」
小田島「本作を書いた時、シェイクスピアはまだ20代だった。若書き。そんな時代にリチャード三世の心の中をここまで書いたことの方が凄い。『ヘンリー六世』ではそういう人物は出てこなくて、歴史自体が主人公となっている。歴史はグランド・メカニズムであり、歴史の流れの中では、王も歯車のひとつに過ぎない。そのあたりについては、レジュメにcf.として書いておいたヤン・コット『シェイクスピアはわれらの同時代人』をご参照下さい。過去の『リチャード三世』の上演では、リチャード三世だけの芝居に見えてしまうことが多かった。今回は背後に歴史の流れを感じることができ、それが発見でもあり、嬉しかった」
岡本「戦いが始まってからは、物語が死に向かうため、台詞を覚える気がしなかった。部下に訓示を与えながらも、どうせ死ぬじゃん、と。あと、呪いのシーンは聞いていられなかった。ま、リチャード三世はその場にいないので、聞いている必要はないンだけど」

──翻訳するうえでの小田島先生のこだわりを教えて下さい。また、鵜山さんと岡本さんは、小田島先生の翻訳について感じることがあれば教えて下さい。
小田島「人称代名詞。日本語はIやYouをどう訳すかで、ドラマができてしまう。あと、固有名詞もたくさん出てくるので、人間関係の表現には気を遣う」
司会「翻訳は劇団シェイクスピアシアターのためですか?」
小田島「そうです。7年間で37本訳したかな。そう言えば、彼(司会を務めた制作部のスタッフ)はあそこの役者だったンですよ」
鵜山「我が青春のシェイクスピアという感じ。小田島さんが演出された舞台もよく観ていたので。訳が若々しい。活性剤にさせてもらっている」
岡本「いろんな翻訳者がいるけど、小田島さんの台詞はリズムが気持ちいい。会話として成り立っている。あと、駄洒落が面白い(笑)」

えっと、駄洒落で締めてよかですか?

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