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2016年11月22日 (火)

新国立劇場 マンスリー・プロジェクト 11月

2016年11月22日(火)〜23日(水) 新国立劇場 リハーサル室
http://www.nntt.jac.go.jp/

たっぷりシェイクスピア! vol.2
『ヘンリー四世』のダイナミズム
講師:松岡和子(翻訳家・演劇評論家)

先月末に「大変多くのお申込みをいただいたため、会場をリハーサル室に変更いたしました」とのお知らせ。かなり広いリハーサル室に椅子がぎっしり。150人くらいは集まっていたかな? 松岡先生曰く、「これまでシェイクスピアの広報と思ってやってきたけど、これからは蜷川さんのシェイクスピアの広報としてもやっていきたい」。

以下、印象に残ったことを簡単に。記憶違いや勘違いも多いかと。あしからず。

埼玉でやった『ヘンリー四世』(彩の国シェイクスピア・シリーズ第27弾)は、2部作に及ぶ壮大な物語を、松岡先生の翻訳、河合(祥一郎)先生の構成で、1本の作品として上演したそうな。
そんなことできるのは蜷川さんしかいない。

シェイクスピアと言えども、全編が面白いわけではないし、現代人には理解し難い比喩もあるので、上演の際にカットされる台詞も多い。それでも翻訳家は、一文たりとも疎かにしない。
翻訳家は“文学的な職人”。野暮ったくて地味な仕事だけど、誇りを持っている。

ヘンリー四世はリチャード二世の王位を簒奪し殺害。英国王朝史におけるトラウマ。第一部でホットスパーがヘンリー四世に対して反乱を起こすのは、リチャード二世の復讐でもある。
ヘンリー四世が王位についているのは正しいことではない。←世間の考え
ヘンリー四世は贖罪のためエルサレム遠征を考えるが、果たせずに終わる。大きなトラウマを抱えたまま、罪の浄化もできず、〈エルサレムの間〉で死ぬ(皮肉)。

年齢を変えたり、時間を圧縮したりするのが、シェイクスピアのドラマツルギーの醍醐味。

上海で『ヘンリー五世』を観てきた。上海の劇場とRSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)との提携プログラム。10年かけて(最初は7年の予定だった)中国語でシェイクスピア全37作を上演する。
シェイクスピアの戯曲を読み込んでいれば、言葉がわからなくても、内容も演技の巧拙もよくわかる。

日本におけるシェイクスピア翻訳の歴史を遡ると、坪内逍遥に辿り着く。逍遥はアカデミズムの人であり、演劇の作り手でもある。それはたいへん幸せなこと。
中国では大学の先生ばかりなので、対応が冷たいらしい。

シェイクスピアの台詞の特徴→ト書きが台詞の中に入っている/二人称の使い方
二人称にはyouとthouがある。thouは「俺」「お前」の中。二人称の使い方で人間関係の機微を表わす。
ハルとフォルスタッフの距離感。一部と二部のハルの台詞の差。一部では言葉は冷徹だが、仲間でもある。二部では言葉に温かみがあるが、結局、切り捨てる。そのあたりの表現(最初から最後まで冷徹なままで通すのか、少しは救いを残すのか、その線引き)をどうするのかが役者の悩みであり、演出家の悩みでもある。と同時に、観客の楽しみでもある。

white hairs(白髪)は経験と叡智の象徴。
フォルスタッフの白髪を、馬鹿な道化には似合わない、とハル。

フォルスタッフの台詞にはifが多い。退路を残す言い方。フォルスタッフのメンタリティ、卑怯未練な奴を表している。でも、ifを使えるのは、現状認識力と想像力を有する証しでもある。
暇なので(笑)、ifの数を数えてみた。一部で73回、二部で29回、出てくる。すべて計算でしているとは思わない。
後に、シェイクスピアは『お気に召すまま』でifの効用を語らせている(ifを使えば決闘も回避できる)。フォルスタッフのことが念頭にあったのではないか。

松岡翻訳の研究者がいて、その人によると『ジュリアス・シーザー』の翻訳には四字熟語がたくさん出てくるらしい。男同士の勢力争い。柔な言葉は弾き飛ばされてしまう。結果的に四字熟語が多くなってしまった。
シェイクスピアのifと同じく計算してやったわけではないので、自分で「瞬間シェイクスピア」と言っている(笑)。

大まかに言うと、シェイクスピアの劇作は史劇→喜劇→悲劇→ロマンス劇と進む。すべての要素を含む史劇から始まり、喜劇、悲劇と続き、最後にまたすべての要素を含むロマンス劇に行き着く、というのは興味深い。
ちなみに、史劇の時代に書いた悲劇は『タイタス・アンドロニカス』のみ。

最後に蜷川さん演出『ヘンリー四世』の映像を流し、稽古場の思い出話も。
稽古初日。本読みの後にいきなり立ち稽古となり、木場勝己さんが完璧に台詞が入っていて、共演者に嫌がられたとか、蜷川さんが「一度死んだ蜷川が新しく生まれ変わったぞ、という演出をする」と言ったとか(手術後の復帰作だったので)。
ンで、冒頭に書いた「蜷川さんのシェイクスピアの広報」云々という言葉に繋がる。

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